おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

四文字言葉 (20世紀少年 第870回)

 長編のマンガやアニメでは、しばしば最終回に昔懐かしい登場人物が集合して、最後の顔見世をしてくれることがある。「あしたのジョー」では金串や青山がメンドーサとの決戦を観に来たし、そして黒いダイアモンド、カーロス・リベラの姿もあった。

 アニメの「みなしごハッチ」では、カマキチおじさんが参戦して壮絶な戦いぶりを見せている。それにしてもなぜ私に無断で「みつばちハッチ」に変えているのだ? 私は言葉狩りが嫌いだし、ついでに言うと言葉狩りという言葉も好かない。


 「21世紀少年」の下巻でも国内外の関係者が出てきて、ロボットが再び動き出したという報に驚きつつ、へこたれない根性ぶりを披露している。最初は「地球平和奪還記念」で半チャーハンを10円という格安価格で提供していた珍さんである。珍宝楼も無事だったのだ。珍さんは中華鍋でチャーハンを調理中である。

 あの珍さんが10円(友路は廃止されたらしい)という赤字に違いない値下げに踏み切るとは、よほど地球平和奪還がうれしかったのだろう。彼はこれを「ボランティア」と呼んでいる。それで有料?と考えるのは本来間違いであり、ボランティアは有志、といって分からなければ勝手にやっているという意味で、生業の労働をアダムさん以来の厳罰と考える宗教の国において、好きでやる仕事のことなので有償でも無償でも構わない。


 珍店長は平和が戻ったと判断し今日から半チャーハンの値段を元に戻したのだが、そこに訪れた金払いの悪いお客のマライアさんから「またまた地球の危機」という凶報を聞かされた。テレビを観れば後ろ姿のロボットが移動中で、国連軍が手をこまねいている(追い詰めたとも言う)という実況中継。

 珍さんが「また半チャーハン」にするために、「またカンナちゃんに手伝ってもらわねば」と言っているところを見ると、”ともだち”が滅亡して以降、カンナはこの店のアルバイトに戻っていたのだろうか。他方、マライアさんはカンナが巻き込まれていなければよいがと案じている。巻き込まれるも何も、戦場でボランティア活動をしているのを知る由もない。

 
 中華料理の次はヴァチカン市国。ここでも仁谷神父とルチアーノ神父が法王の健康回復を祝っていた最中に、聖職者の一人がマライアさんと同じ情報を伝えに来た。「な」と仁谷神父は絶句し、ルチアーノ神父も驚愕している。ハルマゲドンの再来。

 しかしさすがは最高責任者、法王は泰然自若としており、両神父に彼らの戦友がまだ日本で奮闘していることを確認の上、「彼らのため祈りましょう」と仰った。ここでも困ったときは神頼みである。終わったらワインだ。


 お次はドイツ国のハイマートリヒト村。見覚えのあるトラックと木造二階建ての民家。ラジオが伝える国連の非常事態宣言のニュースを聞いて、道具箱らしきものを運びながらペーターがポップさんに大丈夫かなあと心配そうに声を掛けている。

 ただ一つのワクチンを少年に渡したに違いない男は、「そんな簡単に滅びるわけがない」と今回も豊かな人生経験から来る余裕を示し、妻女の同意を求めた。エプロンで手を拭きながら奥様も賛成し、「さあ朝食よ」と男共を呼ぶ。朝飯前だったのだ。予防接種なしで生き延びた老夫婦である。こんな毎日がずっとずっと続くだろう。


 続いてアメリカのカミナリ族の皆さんが、バイクのエンジンをアイドリングさせながら怒りの声を挙げている。彼らもラジオで「ガラクタ」の「ファッキン・ロボット」が動き出したのを聴いて、現場から遠くにいるのを悔しがっている。

 我が国では漢語由来の四字熟語が尊重されたり、国語のテストに出されたりしているが、英語の「Four Letter Word」は、口に出してはいけない言葉の代名詞となっている。


 しかし同国で働いていたころの実感としては、むしろ積極的に使うことを推奨されているのではないかと思うほど日常的に聞いていたものだ。さすがに利用者はほとんどの場合、男であったが女性軍もニヤニヤ笑って聞いている。ただし文脈で笑わせる技術に欠けると、単なる罵詈雑言になってしまうので要注意。

 一例。当時の景況指標はGDPよりGNPが一般的で、われわれ日本人はGDPの意味が分からなかったため、アメリカ人の同僚にGDPとは何の略かと尋ねた。しばし誰も答えてくれず、ようやく一人の青年が「ガッデム・サムシング」と言った。それではGDSではなかろうか。アメリカ人に真面目な質問をすると、こういう目に遭うから覚悟が必要である。


 もう一つ、滞在中に聞いた最強の罵り言葉についてのエピソード。同僚とゴルフ中に後輩が派手なスライスを打ち上げ、運悪くフェンスを越えて駐車場からガラスが割れる音が聞こえた。どうやら車に当たったらしい。見に行くと見事にフロントガラスに丸い穴が空いており、運転席にゴルフ・ボールが転がっている。せめてドライバーが不在で良かった。

 赴任したばかりの後輩が動揺しているので、私が付いていくことになった。まずはクラブ・ハウスである。受付のカウンターにいた青年に駐車場の件を伝えると、「あんたたちだったのか」とゲンナリした顔で言った。


 どうやら、車の持ち主は実行犯が分からないため、八つ当たりで従業員を散々怒鳴りつけたらしいのだ。その従業員は若いのに立派な男で、私たちには八つ当たりの再現をしたりはせず、その代り怒鳴り込んできた男について、こういう表現を二回繰り返して述べた。「He's really a fucking ass hole.」。翻訳禁止。

 車の持ち主は彼に、犯人が来たら隣の野球場に出頭させろとの伝言を残していた。やむなく隣接の球場に向かう。なかなか立派なフィールドで、三十人ほど観客がいた。私が大声で「ゴルフボールで車のガラスを割った件で来た」と全員に叫んだところ、近くに座っていたおじさんが「He's on the second base.」と笑いながら教えてくれた。


 この緊急時に野球をしており、しかも二塁まで進塁しているとは何事か。そのおじさんが、あそこに奴のワイフがいるよと知らせてくれて、見れば若い女の人がにこやかに手を振っている。

 まずは謝罪したのだが、「いいから、いいから。帰って」と笑っている。亭主が戻ってきたときの面倒を避けたかったのか、とにかく助かった。後輩が名刺を渡して弁償すると申し出たが、結局、保険が下りたのか連絡はなかったらしい。


 さて、バイク仲間のリーダーは「Bull Shit」と怒っている。しかし後部座席に乗っかっていたダニー少年は楽観的だ。なぜなら「ソバ屋のおじさんの仲間」であるケンヂが絶対、地球を救ってくれるからだそうだ。

 気の毒にケロヨンは実名を覚えてもらえず、しかも「地球を救うんだよ」と宣言してルール66を駆け抜けたのは彼なのに、いつの間にか希望の星はケンヂになっている。姉の人徳によるものか。リモコンも”ともだち”も四文字である。



(この稿おわり)





E.T. phone home.
ミケランジェロのオリジナルはヴァチカン市国にあります)







 I bet your mama was a tent show queen
 And all her boy friends were sweet sixteen
 I`m no school boy but I do know what I like
 You should have heard me just around midnight
 Brown Sugar, how come you taste so good
 Brown Sugar, just like a young girl should


    ”Brown Sugar”  The Rolling Stones    翻訳不可






お口直しに葉桜見物などいかが。 (2014年4月3日撮影)

























































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