おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

肩 (20世紀少年 第839回)

 二回続けて緊迫した場面を取り扱ったので、今日は肩の力を抜いて雑文風に書きます。というより駄文そのもの。風邪で不調なのです。大学時代は京の都で過ごしたのだが、私の学生時代は蔦の絡まるチャペルで祈りを捧げることもなく、京都にいるときゃバイクであちこち走り回っていたものだ。

 特に好きだったのが大原で三千院の苔も素敵だが、建礼門院ゆかりの寂光院も静かで良い。大原女といえば頭に籠を載せて歩く行商の女たちで、男と比べて腕力が足りない女が頭に物を載っけて歩く風習は他国にも多いらしい。


 もっとも現代日本ではまず見ないな。重いものを人が運ぶときは背中に負うか肩に担ぐのが通常です。転じて責任を担うときや重圧を受けるときの比喩にもよく使われる。双肩にかかっているとか背負い込むとか。ケンヂも長髪に諸星さん殺しをなんでそんなに背負ってんだ(ルビでは、しょってんだ)と言っている。

 私はいま仕事でも私用でも外出時にはバイク・自転車通勤用のバッグ・パックを愛用している。しかし、これを買う決意をするのに、ちょっとした覚悟が要った。なぜなら若いときに職場で、大の男は背負いのバッグを使うな、それが許されるのは兵隊さんとガキのランドセルだけだと躾けられたからである。
 
 言われてみればフーテンの寅さんもゴルゴ13も手提げ鞄である。あれだけで長期の業務出張に出かけるとは大したものだ。万丈目は褒めない。オッチョに至っては常に手ぶらである。ともだち歴のケンヂはバイクの両脇に荷物を括り付けているが、これは背中がギターで満席という事情もある。


 これと似た「肩」の使い方は英語にもある。ポール・マッカートニーは「ヘイ・ジュード」の作詞をしていたとき、アトラス神のお姿でも想起したのか、「Don't carry the world up on your shoulders」と書いたものの、このショルダーは陳腐すぎるのではと悩み、ジョン・レノンに相談したのだとジョンの死後に語っている。
 
 「何を悩むか、パウロよ」とヨハネはのたもうたらしい。「そのままで良いに決まっている」というのが相棒の即答であった。「ジョンというのはそういう男だったよ」というのがポールの感想であった。そういう男というのがどういう男なのか良く分からないが、ともあれ文意からすると褒め言葉として使っていたのは確かだ。


 他人様に向かって何を背負い込んでいるのだと糾弾するケンヂであるが、そもそも遠藤の血筋は何もかも一人で背負い込むことにかけては人後に落ちない。先ずはキリコであるが、21世紀初頭、「わたしは15万人を踏みつぶした」ゴジラであると書き残した。

 確かに彼女がワクチンを完成させなければ、ウィルスはばら撒かれなかったはずである。でもキリコは騙され利用されていたのだから、少なくとも全責任を負う必要はないうえに、このような言葉足らずのメッセージを残したので娘のカンナは誤解して悩んだ。


 娘も娘である。病床のサダキヨに向かって、私のせいで大勢の人が亡くなるところだった、ズルはだめだと嘆いている。キリコもカンナも母娘二代にわたって”ともだち”に迷惑かけられっぱなしで、二人の行動指針は正義の味方そのものであり、次々起きる騒動の一遠因に過ぎないのに、結果を全部引き受けて苦しんでいる。

 ケンヂも負けない。最初のロボットに乘るときはオッチョを置き去りにしたし、次のロボットに「俺の代りに」乗ったオッチョには「悪りイな」と謝っているのだが、何度も書いたように「よげんの書」は連中の合作なのに。自責の国から他責の国に変わりつつあるこの日本で、遠藤家は何を伝えようとしているのだろう。


 第22集でケンヂは遠藤カンナ・プロデュースのライブ会場で歌い始めるときも、俺はみんなが思っているような...と言い差している。ケンヂ一人を標的にしたのは、”ともだち”の勝手であって、彼だけに落ち度があった訳ではない。過去を振り払えない。こういう社会に対する責任感やストイシズムが残っているのは今の皇居の中くらいではないかな。それで、みんな皇室が好きなんだろうか。よく分からない。

 上巻の183ページ、舞台は再び大学病院のICUの前。憔悴しているカンナの横で、さすがの蝶野刑事も元気がない。せっかくのタコ焼きも冷めてしまう。「ケンヂおじちゃんはどうしてる?」と彼は尋ねた。この話題ならカンナも少しは元気が出ると気遣ったか。しかしカンナの返事は意外にも「知らない...」であった。




(この稿おわり)





すでに以前アップしたかもしれない。実家に現存する私のメンコ。左より「スーパージェッター」、「鉄人28号と金田少年」、「アポロ月に立つ」(1969年製だろうか。まるで伴宙太のようだ)、「サイボーグ009の島村氏」、「なぜか敬礼しているジャイアントロボ」。




 I met a gin soaked bar-room queen in Memphis.
 She tried to take me upstairs for a ride.
 She had to heave me right across her shoulder.
 ‘cos I just can’t seem to drink you off my mind.

           ”Honky Tonk Woman”   The Rolling Stones


 メンフィスのバーでジン浸りの女王様に会った。
 女は俺を二回に連れ込もうとした。
 俺に乘るために。
 女は肩で俺を担ぎ上げなきゃならなかった。
 いくら飲んでもお前を忘れられそうにない。

 
 かへし


 When the world is ready to fall on your little shoulders,
 and when you're feeling lonely and small,
 you need somebody there to hold you.
 You can call out my name...

           ”When You're Only Lonely”   John David Souther










































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