おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ねずみ考 (20世紀少年 第834回)

 
 映画「20世紀少年」においてオッチョが旧山根邸の隣家の奥方から、ご本人さま確認の質問攻めに遭う場面がある。その中で「干支は?」と訊かれた彼は「イノシシ」と答えている。先日、十二支絡みのコメントもいただいたところですし、今日と次回は思いきり脱線します。

 1959年生まれのオッチョやケンヂはイノシシ年、つまり十二支の締めくくりの「亥」である。翌1960年誕生の私は、打順が一巡りしてトップ・バッターの「子」すなわちネズミ年。退職した会社が吸収合併されたとき、水産学部卒の先輩から「さすがネズミ年は逃げ足が速いな」と言われました。船が沈没する運命にあるとき出航前に逃げ出すとか。


 今年の干支は「午」だから、馬の絵の年賀状がたくさん来ました。子と午は6年違いで、十二支の反対側。子の刻とは夜中の0時であり、午の刻が真昼になって午前と午後とを分ける。昔は地図で経度を示す縦の経線のことを子午線とも呼んでいました。最近あまり聞かない。

 自分の干支とあって私はネズミに愛着があり、かつて実家の天井に住んでいたネズミが夜になると天井裏を走り回る軽快な足音が好きだった(今はもういないが、まさか実家が沈没するのでは)。しかし世間では、ネズミは米を食い荒らしたり柱をかじったりするので嫌われている。

 しかも疫病を媒介するので、害獣呼ばわりされている。カミュの「ペスト」は主人公の医師リウーがネズミの死骸に気付く不気味なシーンから始まる。この小説は高校生のとき初めて読んだが、「それはないだろう」という出来事の連続でショッキングであった。


 でも小柄なネズミは愛嬌もあるし、酷く憎まれていたら十二支のメンバーに選ばれたり、今はグレーと呼んでいるカラーに鼠色という名も付かなかっただろうし、「トムとジェリー」の主役にも抜擢されなかったに違いないないのだ。日本のテレビでも放映された。「仲良くケンカしな」という歌を覚えている。

 トムとジェリーはすごい。ときどきトムがピアノでベートーヴェンなど弾くが、ネコの指先は本当にその音の鍵盤をたたいているらしい。アメリカで映画を観ていたころ、本番前にアニメ「トムとジェリー」の短編が出てきたことが何度もあり、往々にしてお目当ての映画より面白かった。


 ネズミが十二支の筆頭なのは多産の縁起によるものかもしれない。ネズミ講という詐欺は私が子供のころからあるが、一向に類似の犯罪や犯罪まがいの投機商法がなくならない。原理的に永続するはずのないシステムであることは少し考えてみれば分かるだろうに。欲を張るから。

 ちょっと似た手法の「不幸の手紙」というのが小学校で流行った。「これと同じ文面の手紙を5人に出さないと不幸になる」という葉書を出すという凶悪犯罪である。幸い私には来なかったが(すでに目に見えて不幸だったのか)、隣家に遊びに行ったら一つ年下の友人にちょうど不幸の手紙が届いたところで、彼は葉書を手にどうすべきか悩んでいた。


 聞けば同級生からだという。私はメロスより激怒した。彼は生まれついての心臓病で身体が弱く、小柄で運動も苦手だった。これは悪質なイジメである。そこで私は「この手紙を送ってきた奴に、5枚全部まとめて出してやれ」とヨブを告発するサタンのごとく提案した。

 結局、彼はご家族と相談のうえ、母親と一緒にその同級生の家まで行って葉書を返してきたのだという。大人の解決です。私の軽率な解決策に乗った挙句、相手から25枚も返ってきたら大変なことになるところであった。


 さて、かつて「20世紀少年」に出てくる動物は犬だけだろうと書いたが誤りで、ネズミも2箇所に登場する。先ずは第8集においてネズミが2匹、ヨシツネの秘密基地に至る地下道を走り抜けてコイズミを脅かせている。地下の湿った場所のようだから、たぶんドブネズミだろう。

 かつて近所にあったドブ川で巨大なドブネズミの大群を見たことがあり、さすがの拙者もたまげました。もう1箇所、第20集でキリコがグローブ・ボックス型の実験用局所排気装置でワクチン製造の研究をしている場面に出てきたラット。実験用のネズミのことを、昔はもっぱらモルモットと呼んでおりました。


 我ら昭和三十五年度生まれは、現在センター試験と呼ばれている一斉テストの第1号、「共通一次試験」の第一期生にされてしまい、マークシートとやらの塗り方の訓練までする羽目になった。解けなくても何分の一かの確率で正解になってしまうとあって賛否両論かまびすしかった。

 決まってから後になって、あれこれ言われても当事者の我々は迷惑なだけだし、どうせ試験には相当の運不運がつきまとうのだ。私が聞いた中で一番スッキリとした意見は、野坂昭如がテレビ番組で言い放った「世の中、モルモットも必要だ」という主張であった。キリコも賛成することだろう。


 十数年前に知り合いからもらったハムスターを自宅で飼ったことがある。幼かった長男がエルフと命名した小さなハムスターは、最初のうち慣れなくてよく噛みつかれたものだ。しかしすぐに仲が良くなり、右の手のひらに乗せると右腕を駆け上がり、首筋を伝って左腕の先まで走っていく。エルフは家族の一員になった。

 残念ながらハムスターの寿命は短い。ある寒い日の朝、エルフは小さく冷たく固くなっていた。エルフは小さな墓に入った。家族のみんなに愛された小ネズミだった。さて。モルモットといえば、アルジャーノンを忘れるわけにはいかない。長くなったので脱線したまま次回に続きます。




(この稿おわり)





 ドブネズミみたいに誰よりも優しい
 ドブネズミみたいに何よりも暖かく

     「リンダ リンダ」  ザ・ブルーハーツ








元旦の散歩中に撮影。アオサギ。上「before」、下「after」







 ピアノみたいに おすましだけど
 ちょっぴりおしゃまな おねえさん
 光みたいに 明るいけれど
 ちょっぴりきかん坊 弟よ
 けんかをするのは 仲がいいから
 だってふたりは きょうだいだもの

        キリコとケンヂの唄 というのは嘘でチャコちゃんとケンちゃん























.