おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

拘置所  (20世紀少年 第828回)

 上巻の152ページ目。時代は現在。場所は東京拘置所と書いてある。この名称の組織・建物は現存する。仕事柄、足立区の北千住や綾瀬に月一二回は行くのだが、東京拘置所は両市の中間点(ただし住所は葛飾区内)の小菅にあり、私はそのすぐそばを常磐線に乗って通過する。現在の建物もマンガの絵とそっくり。

 刑事法には詳しくないが仕事の関係で刑事施設という名前はたまに耳にする。法律用語で、警察沙汰になった人が放り込まれる施設の総称らしい。順序としては先ず、おまわりさんにしょっぴかれて取り調べを受けるのが留置所で、いわゆるブタ箱です。蝶野刑事とルチアーノ神父はそこで七龍のラーメンなど食べていた。

 
 以下は前も書いたが、有罪と警察が判断して身柄を司法府に送る。そして裁判の間、入れられるのが拘置所。判決が下って懲役・禁固の刑が確定すると受刑者となって刑務所に引っ越す。ただし、死刑判決が下ると受刑者ではなく「順番待ち」の立場になるので、刑務所ではなくて拘置所で暮らすらしい。麻原もこの東京拘置所にいる。うちの近所か...。

 もっとも以上は現行の現実の刑事法による制度なのであって、物語では”ともだち”が法律も司法制度もメチャクチャにしたかもしれないし、さらに今では国連軍の所掌下にあるのだから、どのような運用がなされているのか分からない。

 
 このため、窓に鉄格が鉄格子はまった部屋の中で向かい合って座っているヤマさんと蝶野刑事が、面会中なのか取り調べ中なのか私が見ただけでは区別がつかない。まだケンヂによる捜査も反陽子爆弾の捜索も現在進行中だから、裁判が終わったとも思えないので面会かな。でも会話の大半は取り調べ風になっている。

 冒頭でヤマさんが「お母さん、ずいぶん良くなった?」と訊いている。この蝶野刑事のお母さんとは、あの日ヤマさんの目の前でチョーさんが運命の携帯電話を受信してしまった相手、娘の裕美子さんである。そして将平君の母でもあり、足立区の病院に入院しているはず。つまり今も東京拘置所の近くにいるなら、蝶野刑事はお見舞いにも行ってきたのだろう。


 ヤマさんは余裕の構えを見せており、親孝行になっただろうとか、君も偉くなったなと将平君を褒めている。蝶野刑事は連合軍の特別警察隊(ミリタリー・ポリスか?)に所属しており、”ともだち教団”調査特別チームの隊長に昇格したらしい。隊長とくればヨシツネと同格ですなあ。お手柄だったもんね。
 
 第2週の第1話においてカルト教団の名前を問う市原弁護士に対して、万丈目は団体名など必要なのかと切り替えし、さらに「これが名前です」とスプーンで目玉左手マークをコンコンとノックしていたものだ。俗世ではそうもいかず政治組織には友民党という名を付けたが、最後まで教団名は無かった模様。国連はやむなく平凡に”ともだち”教団としたな。


 ヤマさんは君に逮捕されてよかったよと感想を語り、これで少しはチョーさんに償いができたかなと点数を稼ごうとしたが、蝶野刑事は黙殺している。そこで会話は太陽の塔に移った。ヤマさんはこれまでの証言の中で、太陽の塔の中に「チョーさんメモ」なるものを仕舞いこんだと語ったらしいのだ。
 
 それを受けた蝶野刑事は連合軍に捜査申請を出したらしいのだが、国連は今や(今もか)日本人の言うことを、すんなり聞き入れる態度に欠けているようで、刑事はまだ令状をもらっていないらしい。このため、蝶野刑事は再び話題を変えて、一枚の写真を取り出した。「”ともだち”の遺体です」と刑事は言った。


 ヤマさんは暫し無言で、目を閉じた遺体の顔写真を眺めている。「間違いなくそれが”ともだち”ですか?」と蝶野刑事は基本的な質問をした。彼はフクベエの顔も”ともだち”の正体も知らないのだ。そしてヤマさんにあっさり「そっくりだが違うな」と否定されて驚いている。

 続いてヤマさんはもう少し分かりやすく、自分が入信したときの”ともだち”ではなくて、写真のそいつは「本当の”ともだち”が死んだときにすり替わった」とあっさり答えた。蝶野刑事は「すりかわった...」と訝っている。


 彼は復活の現場に居合わせたのだが、そのままずっと同一人物だと思っていたのだろうか。それにしても、ヤマさん自身は何時”ともだち”がすり替わったのを知ったのだろう。「死んだとき」というタイミングまで知っている。万丈目も高須も知らなかったのに。

 やはり万博会場での復活の日、独力ですり替わるのは至難だから警察の力を借りたのだという私の妄想は当たっていたのだろうか。その功あって口も堅くて、粛清もされず出世したのだろうか。さながらゲーリングヒムラーのような役回りか。


 でもヤマさんの発言は、「”ともだち”のコピーだよ。おれが信じたのは、こいつじゃない」と続く。「こいつ」だって。面従腹背か。後に出てくるがヤマさんの座右の銘は、肝心なことは見ずに逃げよである。ともあれ同じころヴァーチャル・アトラクションの中で、悪酔い万丈目とケンヂが話している内容に結びつく情報である。


 だが蝶野刑事は再び口をつぐんだ。ヴァーチャル万丈目の発言も知りようがないし、それにヤマさんの言っていることが正しければ、この写真の男は蝶野刑事の祖父の仇敵ではない(かもしれない)ということになる。ケンヂは彼に謝るために東京に向かったはずだが、同行の刑事には詳しい話をしていないだろう。

 そこで蝶野刑事は、これも刑事さんの落としのテクニックの一つなのだろうか、目まぐるしく話題を切り替えて、今度は「あなたは、なぜ入信したのですか」と昔話に持って行った。これまで上手くかみ合わなかった二人の会話が、ようやく核心に向かい始める。

 なお、万丈目とヤマさんにとって”ともだち”とはフクベエであり、すり替わった方はコピーに過ぎない。一応は社会人生活が長いせいか現実的である。しかし高須は「誰だっていい」と言うし、後に敷島教授の娘も同じような言動をとる。後者のタイプがカルトを世襲させるのだろう。




(この稿おわり)







上は柿の木、下は椿の花。
(いずれも2013年12月14日、新白河にて撮影)





 君は怒りの中で 子供の頃を生きていたね
 でも時には誰かを 許すことも覚えてほしい

           「悲しみは雪のように」   浜田省吾




































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