おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

Centerfield (20世紀少年 第745回)

 前回の続きです。このブログも早、2年。ちょうど2年くらいで終わるかと思っていたのだが、あと半年ぐらいかかりそうだ。早くしないと西暦が終わってしまう。さて。

 1980年代の終わりごろ、サンフランシスコでアパートを借りて住んだとき、数十ドルで30チャンネル以上を楽しめるというケーブル・テレビのサービスがあったので契約した。とはいえ余りテレビを観るほうではないので、ニュースと音楽と映画ぐらいしか使わなかったな。ロックのチャンネルではMTVが有名だが、私は選曲の好みでもう一つのVH1を良く観た。


 ある週末、何気なくVH1をつけてみると、ミュージック・ビデオの「カウントダウン」という特集をやっている。その順位は局が決めたのかファン投票の結果なのか未だに分からない。さっそく録画を始め、終わったときには120分のVHSビデオを2本半以上も使っていた。

 ちなみに、1位はマドンナの「Like a Prayer」、2位はダイアー・ストレイツの「Money for Nothing」。しみじみ時代を感じます。日本はバブル景気のど真ん中だった頃だ。ホイットニー・ヒューストンマイケル・ジャクソンも生きていて元気に歌っている。

 
 番組途中からの録画である。今も手元にあるビデオの始まりから3曲目は第114位、ジョン・フォガティのパワフルな声が聴ける「Centerfield」だ。この曲の映像は古い報道のフィルムを使っていて全て白黒。センターフィールドとは中堅のこと。日本でいうセンター。少女合唱団の真ん中で歌う娘のことではなくて、広大な野球場で一番広い守備位置を担当する外野手の職場である。

 ジョン・フォガティの歌う「俺」は、ベンチ入りの補欠で試合に出たくてたまらない野球選手である。この映像は私の知らない野球選手が大勢出てくるし、撮影技術も今と比べれば単純なものだ。でも観ているだけで楽しいのは、撮るほうも撮られるほうも野球が大好きだということが伝わってくるからだ。


 冒頭に映る日本のメンコのようなカードには、スター選手たちの似顔絵と名前が描いてある。ミッキー・マントルや歌詞にも出てくるタイ・カッブ。ときどき歌詞の内容にタイミングを合わせた映像が出る。例えば歌い手の「俺」が、Ernest Lawrence Thayerという詩人の「Cesay at Bat」という野球の詩に出てくる「Mudville」という架空の野球のチームにかつて在籍していたこともあるという設定になっている。

 歌詞の「俺」はその当時もベンチ・ウォーマーでマッドビル・ナインのゲームを観ていた。この歌詞の場面では、ニューヨーク・ヤンキースのベンチの映像が出てきて、真ん中で笑っているのはベーブ・ルースだ。ディマジオはベイブやゲーリッグと入れ替わりで入団し、新たな時代のヒーローになった。


 また、歌詞にジョー・ディマジオのフルネームが出てくる場面では、ジャケット姿の大ディマジオが周囲のファンと握手しているシーンが出てくる。これと同じ動画はアメリカの野球殿堂館がネットで保存しているフィルムでも見ることができる。最後に出てくるバットを4本も抱えた黒人選手は「Say Hey Kid」というあだ名のウィリー・メイズ。センターフィールドは万能選手の宝庫だ。

 日本のテレビ局が野球の名場面集を作ると、特に外野は曲芸的ナイス・キャッチのシーンばかりになる。それはそれで見ごたえがあるけれど、普通に観客席で見ていて外野手の魅力は何てったって俊足だ。背走の技術もすごい。一旦ボールから目を離して長打を獲りに走る。「センターフィールド」に使われている映像は、守備や走塁で俊足を飛ばしているものも多い。これが外野手だ。さすがナガシマだね。


 メイズやカッブやディマジオの名の直前に出てくる「Don't say it ain't so.」という歌詞は、米国球界史上最大の不祥事「ブラック・ソックス事件」がらみのセリフ。八百長で永久追放されたホワイトソックスの8人の選手のうち、アベベと同様、裸足でプレイするのが好きだったシューレス・ジョーこと、ジョー・ジャクソンがある日、畑をつぶして造った私設野球場に現れるというのが映画「フィールド・オブ・ドリームズ」だった。

 私がバート・ランカスターを最後に見た映画だ。あのキャッチ・ボールのシーンで、ケビン・コスナーは世に出た。この映画のことは、いつかまた別の機会に語りたい。観客席なども含めた野球場はスタジアムという。野球をやる場所は日本ではグランドと言うことが多いが、英語は通常「field」なのだ。秘密基地のあった原っぱもフィールドだ。


 「Centerfield」は」私の一番好きな野球の歌。「Take Me Out to the Ball Game」よりずっと良い。同好の士は日本にもいるようで、野球中継や野球のドキュメンタリーでときどき流れる。さて、ジョン・フォガティーの勇姿は、ずっと前にこのコラムでも紹介したローリング・ストーン誌が制作した記録映画「ロック&ロールの20年史」でも観ることができる。

 CCRはこの中で「Fortunate Son」を演奏しており、ジョン・フォガティの高音で張りのあるボーカルと昔懐かしいマッシュルーム・カットを堪能できる。他に私の好きなCCRの曲といえば「Proud Mary」や「Down on The Corner」がある。一番好きな「雨を見たかい」は待ちきれなくて、ずっと昔にここで話題にしてしまった...。


 漫画に戻って再録。「いい曲、流れてるな、CCRだ」とケンヂ。「ああ、”雨を見たかい”だ」とコンチ。私の好きな場面の一つ。こんな会話は長生きしていても、そうは交わせないものだ。私の記憶ではこの人生で一度だけ。

 故郷で中学の同級生と飲んでいたとき、どこかで聴いたことのある荒削りな曲が流れてきた。相手はセミプロのロック・バンドをやっていた男。「この歌、なんだっけ」と訊いたら「ハッシュ」と即答があって、しばらく二人で黙って聴いた。


 カリフォルニアに移り住んだばかりのころ米国人のロック・ファンと話をしながら、日本のロック・ファンが好きなのはイギリスものが多いなと気が付いた。ビートルズストーンズ、フーにヤードバーズツェッペリンにパープル、キング・クリムゾンELPバッド・カンパニーT-REXもそうだ。

 だが、外国人でも何年かアメリカで暮らすと音楽も身に付くらしい。CCRもドゥービーズもオールマン・ブラザーズ・バンドも、そうやって好きになった。何ごとも経験してみるものです。




(この稿おわり)
 




Joe DiMaggio




 久方のアメリカ人のはじめにしベースボールは見れど飽かぬかも  子規




 
 Well, beat the drum and hold the phone.
 The sun came out today.
 We're born again.
 There's new grass on the field.
 A-roundin' third, and headed for home
 It's a brown-eyed handsome man.
 Anyone can understand the way I feel.


 太鼓たたいて 笛吹いて
 今日は晴れた 生まれ変わった気分
 フィールドには新しい芝生
 三塁を回ってホームに向かう(家路を急ぐともいう)
 瞳が茶色のハンサムな男
 誰だってわかる俺の気持ち

          ”Centerfield” by John Fogerty



 Two, three, the count with nobody on
 He hit a high fly into the stand
 Rounding third he was headed for home
 It was a brown eyed handsome man
 That won the game, it was a brown eyed handsome


          ”Brown Eyed Handsome Man” by Chuck Berry   
           50年代はロック・アンド・ロール・ミュージックの始まった時代だ

 








































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