おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

泥人形 (20世紀少年 第742回)

 第22集の第3話「東京都民の皆さん」は、母親の制止も聞かずサナエが外に飛び出して、自分が配ったカセットの曲が近所の家々から聴こえてくるのを喜んでいる場面から始まる。ところが母ちゃんが驚いたことにカツオまで家から飛び出してきた。弟は姉にラジオが急に受信できるようになったと興奮気味に報告している。

 しかも流れている曲は外と同じで、ただし違うバージョンのグータララ節であった。姉弟はどこで誰が流しているのかと驚いているが、もちろん都内に引っ越してきたコンチが東京のテレビ局で流しているのだ。カツオの持っているラジオが恐ろしく古い。これは多分、AM放送しか聴けないはずだ。そもそも、サナエが配布したカセット・テープからして古い。


 100枚ほどある私のレコードは再生装置を失って、おそらく私とともにいつの日か滅びるのだろうが、400本くらいあるカセット・テープも同じ運命をたどるのだろう。自宅にある2台のコンポのうち十数年前に買ったほうではカセットの再生ができるが、数年前の頂き物のほうは再生の機能がない。絶滅危惧種か。私が小学校のころのオープン・リールのレコーダーはもう一般家庭にはあるまい。実家の隣の隣に一台あって、ときどき遊ばせてもらったのを覚えている。

 高校3年生のころ自宅にあったカセットのデッキは、まだB5盤ぐらいの大きさがあって音が悪く、しかも機能はカセット・テープの再生と録音だけ。これはさすがに当時としても古く、同級生にバカにされたのを覚えている。すでにラジカセの時代に入っていたし、その翌年、1979年にソニーが発売したウォークマンは、音楽は屋内で聴くものという一般常識を一撃で大破した。そのウォークマンも確か去年、ソニーは国産を中止したはずだ。時は流れた。


 再生機もさることながら、肝心のカセット・テープにも寿命がある。400本のテープのほとんどはアメリカで買ったものだが、その当時は20年くらいで寿命が来ると言われていた。もう少し大丈夫だろうと高をくくっていたら、本当に20年を過ぎたあたりから急速に音質が衰え始めた。テープが伸びてしまうのだ。このため、ジャニスやCCRやディランのベストもみんな聴けなくなってしまった。なぜかT.Rexのテープだけは健在で、「20世紀少年」も当時のままで聴くことができる。

 それにしても、マーク・ボラン命名したと思われる彼らの曲名はユニークというか変てこりんというか、「ジープ・スター」だの「メタル・グルー」だの、いまだに意味不明のものが多い。「20世紀少年」だって、改めて考えてみれば妙なタイトルだ。クリムゾンの「21世紀の精神異常者」は黙示録のごとき予言性を有しているが、「20世紀少年」はおそらく唯の言葉の遊びだろう。おかげで楽しく漫画を読めてありがたいものです。


 サナエとカンナがラジオで聴いている曲をかけているDJ、コンチの回想が始まる。「そいつは泥人形みたいにつっ立っていた」というコンチのセリフの背景に、ケンヂの絵が描かれている。泥人形。死語ブログの出番だ。かつて人形は土や木で出来ておりました。私たちも田畑にいくらでもある土と水を使って、人型に限らず泥団子だの、ミニカーを走らせるレース場だの、思いつく限りのものを作って遊んだ。今も帰省すれば多少の田畑は残っているが子供はいない。

 土の人形は木製よりも残りやすいのだろう。埴輪や土偶が近くの上野の美術館ほかたくさん残されている。むかし「ハニワ」というあだ名の知り合いがいたが、どういう目の形をしていたか説明するまでもないと思う。愛嬌がありますな(大魔神は怒らせると怖いが)。それと比べると、土偶はより宗教性が高いのだろうか、ときどき不気味なものもあります。


 木で出来た人形は、古語では土偶と同類の表記で木偶と書き「でく」と読む。役立たずを「でくの坊」と呼び、でくの坊みたいに突っ立ってんなと叱られたものだが、これも最近とんと聞かない。叱り方や怒り方にも言葉の使いようというものがあるはずで、どこかユーモアなり妙味なり残しておかないとハラスメントなどと言われてしまうのだ。

 コンチがケンヂを彼とは知らず泥人形と形容したのは、実際に三日三晩も山の中を転げまわっていたため、泥だらけだったのだろう。しかし、愛用のギターだけはしっかりと抱えている。ギター持ったまま壊さずに転げまわるとは、さすがギタリストというほかないな。どうやら、ケンヂはさまよっているうちに、北海道のコンチのラジオ局にたどり着いたらしい。


 二人の会話は次回に譲るとして、人形の話題を締めくくろう。さすがに人類の進歩と調和により人形も木と泥だけではなくなって、例えば端午の節句や雛壇の人形には立派なものだと絹など使われるようになり、他方で我らが少年のころはセルロイドのような合成樹脂が入ってきていた。青い目をしたお人形は(歌うとお人魚にしか聞こえないが)は、アメリカ生まれのセルロイドだった。

 そしてリカちゃんシリーズのデビューである。キューピー人形にロボタン。お面も負けていない。「20世紀少年」に出てくるお面の実際の色をご覧になりたければ「セルロイド お面」などで検索すると「忍者ハットリ君」も「ナショナル・キッド」も出てくる。なんと今でも製造販売されているらしい。誰が買うのか。まさか、怪しげなサークル活動では...。



(この稿おわり)





近くのオモチャ屋さんにて。何代目の仮面ライダーの人形だろうか。
(2013年5月30日撮影)


































































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