おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

イレズミ (20世紀少年 第694回)

 小欄ではマスコミの言葉づかいに文句をつけるのが一つの楽しみとなっている。インフルエンザを「インフル」と省略する態度が気に入りません。確かに長い単語だが、テレビジョンを勝手にテレビと略していたころとは時代が違う。

 ソバ屋の蛙もグローバリズムを目指す今日、すでに国際的に使われている略称があり、さらにそちらのほうが短いのになぜ無視する。
拙宅にある1981年発売の英和辞典にも「FLU インフルエンザ、流感」と載っているし、1990年代のアメリカ駐在時もフルーという言葉は日常的に使われていた。

 先般テレビで、世界保健機構(WHO)の公式記者会見をテレビで観ていたところ、報道官も鳥インフルエンザを「バード・フルー」と発音していたのだ。今からでも遅くないのでフルーにしてください。


 その鳥インフルエンザだが、中国で徐々に犠牲者が増えている。台湾でも患者が出たらしい。ワクチンのないウィルスで人が死んでいくなんて、小説か漫画の世界だと思っていたらとんでもない間違いだ。

 亡くなった中国人のみなさんには申し訳ないが、率直に申し上げて何故また選りによって中国なのか。地理的に近いし人の行き来も多い。ただでさえ、こちらは風下である。そして、大量の食料品を輸入しており、私は鶏料理が大好きなのだ。


 お医者さんたちの話では、ワクチンというのはウィルスが特定されないと作れないものらしい。インフルエンザの予防接種も、この冬はこれが流行りそうだという想定の下で、その型に対するワクチンを打つそうだ。あとは幸運を祈るしかない。他に仕方がないのだから。あくまで開発の順序は「山根→キリコ」なのである。

 したがってバード・フルーの場合も、人から人への感染の犠牲者が連鎖的に出てしまったら、そのあとで初めて有効なワクチンを開発し得る。時差が生ずる。体力でもつけておくほかない。


 少年が仁谷神父の様子を気にしていたのは、法皇様から極秘の依頼事項があったからだ。日本から来る神父さんに頼み事を託けてもらいたいというもので、その神父を見分ける外見的特徴は、日本人、顔は怖いがいい人、そしてイレズミという神父らしからぬ条件も含まれている。

 少年は道端で日本人らしき神父を見つけた。ここで何しているのと訊いたところ、法王とお会いする機会を待っているという。残るは顔面と背中の確認である。神父は店の手伝いか、えらいなと言ってくれた。いい人らしい。では顔つきはどうか。

 少年は思いきって「神父様、イレズミしてる?」と問うてみた。なぜそれを知っとると昔の稼業向けの顔で神父は少年をにらみつけた。十分、怖い。最後の難関はイレズミであるが、「こういうものはひとに見せるもんじゃない」と神父が言うから、逆に少年にとっては嬉しいヒントだ。


 あとは父親の助けを借りればよい。少年は「おなかすいているだろ? うちの店来てよ、うちの店うまいよ」と勧誘し、さすがの仁谷神父も「はあ?」と顔をしかめたが、幸いお腹がすいていたらしい。金龍楼はまずまず立派な門構えで、漢語の下に直訳のイタリア語で店の名が書いてある看板ひとつ。中華だからおそらく赤い色。世界中どこへ行っても中華の店は赤と黄色を好む。味に外れがない。

 神父はまずスープをひとさじ頂いてから、「この味は...」と驚いている。少年は大当たりの手ごたえを得てニッコリしている。店主が奥から現れて、青林峰村の張だと名乗った。張さんは神父が今の法王とともにワクチンを届けた中国奥地の村にいた人であった。


 まさに情けは人のためならず。「この方で間違いない」と店主は息子の小龍に太鼓判を押した。「2001年の勇気」の当時、シャオロンはまだ生まれていなかったのだ。

 だが事が事だけに、シャオロン少年も慎重を期している。イレズミを見るまで話しちゃいけないってと言い淀んでいる。父ちゃんも苦笑い。仁谷神父は上着を脱いで、背中の彫り物をみせた。縁起の良いことに店の名と同じ龍の意匠がこらしてある。少年は「すごい、本物だ」と鑑定した。


 話って何だいと仁谷神父。シャオロンは「僕、毎日三回、法王(パーパ)に出前届けてるんだ」と言った。驚きの神父。パーパはお金払っているのかな。ツケかな。少年によると、法王は他の聖職者を信用できなくなっているのだという。理由は悪い”ともだち”と付き合っているかもしれないというのだ。心配でご飯も食べられないという。

 毒でも盛られたかと神父は心配するが、幸い「だから、うちの出前しか食べられない」ということで、出前の御用達になっているのであった。そして法王は日本から来た神父さんを探してくれと頼んだ。顔は怖いがいい人だから。出前一丁が出来上がり、少年は神父を連れて法王庁に向かう。



(この稿おわり)





近所の中華料理屋さん。美味。繁盛。
(2013年4月18日撮影)



































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