おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ともだちのともだちはみな... (20世紀少年 第689回)

 第21集の20ページ目。コンチが驚いたことに部屋の住民(?)は「おまえラジオのDJだろ」と正しく指摘してきた。ラジオで声を聴いていたので、すぐわかったのだそうだ。DJの声質やしゃべり方は個性があるもんね。コンチはリスナーがいたと知って喜び、さっき電リクをくれたのもあんたかと訊いたのだが、返事は「ここに電話はない」だった。では誰が?

 出て来いよと改めて呼びかけても、相手は無言のままだ。コンチは先ほどのやり取りを思い出して、「敵って、あんた何か悪いことでもしたのか?」と質問してみたところ、めずらしく長文で「わるいことしたんだ...ともだちに...」という回答があった。さて、間もなく名乗るので名前を出すが、空かずの扉の向こうにいるのは13番こと田村マサオである。


 13番が「ともだち」というからには、”ともだち”のことだろう。「わるいことしたんだ」というのは何か。実は最後まではっきりとは分からない。また、後の独白でわかるが、彼は”ともだち”がすり替わっていると考えている。このため、どちらの”ともだち”に悪いことをしたのかも分からない。ここまでで分かっているのは、ヘリコプターでここまで逃げてきたらしいことと、多分それ以降ずっとここにいるということだけだ。

 ウィルスが怖くて逃げたのだろうか。逃げたら地の果てまでも追いかけてくる元同僚らが「敵」なのだろうか。逃げたことや仲間を敵に回したことが、「ともだちに、わるいことしたんだ」に当たるのだろうか。13番ともあろう悪が、そんな単純な事情で身をひそめているとも思えないのだが、あまりに情報不足である。


 コンチは私のような悩み方をせず、わが身を振り返っている。あんたが友達にどんなことをしたか知らないが、「俺に比べりゃたいしたことねえ」と語りかけている。彼はジーンズの右ポケットから、またハガキを取り出している。札幌市という宛て先と今野という苗字がかすかに読める。地下の秘密基地でケンヂが書いた字だろう。

 そのハガキは2000年の暮れに届いたが、小学校卒業後に北海道に越してきたコンチにとって、ガキのころの友達なんてピンと来なかった。そんなもんだろと相手の賛同を得ようとしたのは、わずかでも心の痛みを薄めようとしたのだろう。ケロヨンとコンチは死の恐怖に直面するのを避けた代償として、十数年にわたり自責の念に苛まれてきたのだ。

 
 しかし相手はそうだねと言ってくれるようなタマではないのであり、「俺は高校まで、ともだちなどいなかった。あの時あの人に出会うまでは...」と当人も何か辛い過去があるような調子である。田村マサオといえば「癒やしの音楽」に「癒やしの体操」。彼は「あの人」に出会って、癒されてしまったらしい。みんなそろって癒されたい現代日本に”ともだち”は登場したのであった。いつまで続くのでしょう、癒しブーム。

 コンチが行動を行さなかったのは、ただ単にピンと来なかったからではなく、「この旗を俺たちのもとにとりもどそう 至急連絡乞う」と招いてきたのが、「ニュースでも有名な指名手配のテロリスト」だったからだ。だから無視した。コンチの「原っぱで秘密基地つくって遊んでた友達がテロリストなんて」というコンチのつぶやきを聞いて、中の男は何か思い当たることがあったらしい。「おまえは誰だ?」と訊いてきた。


 コンチの職業は分かっている。知りたいのは敵か味方かだ。マサオは”ともだち”から子供のころ秘密基地で遊び、地球を守ると誓ったという話と、「僕はコリンズ」の恨み節を第1集のサークル活動で聞かされている。同じ秘密基地だとすると、”ともだち”とテロリストとDJは、皆そこ出身ということになる。中からの声は、「おまえは”ともだち”の友達か?」と訊いてきた。それなら笑っていいともだ。

 相手は激昂してきた様子で、「宇宙と一体化させてくださったあの方と、おまえは友達だったというのか?」と問い詰めてきた。いつの間に「宇宙と一体化」したのだ? 確か”ともだち”は完璧になると宇宙になっちゃうからと戒めていたはずだが。

 でもすでに13番は海ほたる刑務所内で先生と呼ばれて、宇宙と一体となる音楽と体操の指導をしていたのであった。彼のライフ・ワークなのだ。コンチとマサオは急に相手の正体が不気味に思えてきたらしい。お互い相手に誰なんだと尋ね合ったまま、しばし黙り込んでいる。




(この稿おわり)







近所の上野寛永寺根本中堂 (2013年4月5日)





 体の傷なら治せるけれど 心の痛手は癒せはしない 
   「時の過ぎ行くままに」 沢田研二

 涙だけは大きなタオルでもあれば乾くだろう けれど心の傷口は自分では縫えない
   「泣きたい夜に」 中島みゆき




































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