おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

そのころ東京では (20世紀少年 第644回)

 関東軍は落城して滅び、グータララ節を歌い続ける攻城軍は、この勢いで東京まで進むかなどと快哉を叫んでいる。一方で、そのうちの一人は、今、東京はどうなっているのだろうと不安げである。彼らが見つめる東京方面は間もなく朝を迎えるのだろう。ようよう白くなりゆく山際、紫立ちたる雲の細くたなびきたる。熊谷と都心の間となると関東山地の先端部か。

 次のページは空き地にポツリと残された掘立小屋の絵から始まる。扉を開けてバケツを下げながら早朝の掃除に出て来たのはヨシツネだ。お久しぶり。隊長自ら朝の掃除とは、さすが元ドリーム・クリーナー。ヨシツネは階段に立つ人影に気付いている。けんか別れしたカンナであった。


 喧嘩の原因はむしろカンナの方にあったようだが、ヨシツネはかつての老人ホームでの屋上のときと同様、良く戻ってきたなと喜んでカンナに抱き着いている。しかし、カンナは静かな表情を変えることなく、「ヨシツネおじさん、あたし、”ともだち”を殺しに行く。」と、これまで以上に物騒な宣言をした。分厚い眼鏡に隠されて見えないヨシツネの心境いかに。

 そのままの姿で動くに動けなくなった二人をオッチョの雄姿が見下ろしている。ここに二人揃っているということは、「言ってるだけ」の万丈目による”ともだち”の抹殺依頼を請け負ったのか。人殺しだけはしなかったケンヂ一派だったが。ゴオオオオというお馴染みの効果音が鳴り響いて、第19集が終わる。


 先般、アルジェリアで多くの日本人を含む働き者が大勢殺されるという悲惨が事件が起きた。ある危機管理の専門家による講演で聞いたところでは、間違いなく内通者がいたはずだとのことだった。卑劣な行為である。万丈目がやろうとしていることは、これと似たようなものだ。

 彼には親友隊という暴力装置の指揮権があるのだから、自分でクーデタを起こして「敵は本能寺にあり」と叫べばよいのに、準備するだけで人殺しばかり外注するとは何事か。もはや、万丈目には”ともだち”と直接対決するだけの気力体力も残っていないのだろうか。あるいは近づくことすらできない状況に置かれてシェルターに引きこもったまま、第三者にすがりつくほかないのか。


 その顛末は後に譲るとして、ようやく第20集に入る。私はこの第20集が好きで、なぜならば多彩な登場人部が活躍するし、陰惨な場面は少ないし、何といってもキリコの人体実験と娘カンナの単身突入という山場がある。第1話のタイトルは「極意」という。ともだち暦3年の東京が舞台で、お化け煙突が煙を吐いている。

 最初の登場人物は黒帯で結んだ柔道着を肩にかついだ若者3人、これにちょっかいを出して逃げる白帯の子供二人、そして婦人部のノリちゃんの自転車姿。笑顔があふれている。第19集で笑っていたのは、まんぷく食堂での一幕を除けば、ほとんど長髪だけだったものな。


 若者の一人が空を仰いで、ヘリコプターの音をうるさがっている。軍用の乗り物は防音なんて考えていないから、やかましいのだ。若き柔道家らは健全であり、地球防衛軍だの親友隊だのを嫌っている。宇宙人だかテロリストだかを鎮圧するという話を信じていない。

 子供たちによると今日はなぜか全員出席の合同練習であるらしい。彼らの道場に飼われている犬は門下生の顔も匂いも覚えられないらしく、吠え立てて「いつもうるせえな、バカ犬」と怒鳴られている。「いきなり股間に顔つっこんで、なめる」奴の子孫だろうか。道場の看板には墨の跡も黒々と、「厳道館道場」という如何にも厳しそうな名前が記されている。ユキジはここで祖父譲りの柔道を教えていたのであった。



(この稿おわり)





鹿島灘の上空を飛ぶ軍機 (2013年2月18日撮影)
































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