おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

同じ人? (20世紀少年 第635回)

 第19集の154ページ目で、西岡が録音したらしいカセット・テープを手にした長髪が「何これ?」と質問している。彼はアロハ・シャツ姿で、リノリュームらしき床に胡坐を組んで座っており、質問相手は椅子に座った”ともだち”。例の目玉覆面をしている。これはフクベエか? まあ、焦らず物語を追おう。

 ”ともだち”は質問に答えず、その替り、僕のところに来てどのくらいになると長髪に問い返している。答えていわく、大学二年のときから二年間ぐらいだそうだ。仮に浪人・留年なしとして、1994年に大学4年生で22歳なら、ケンヂと初めて会った1989年は17歳くらいの高校生で、生まれたのは1972年ごろ。宇宙戦艦ヤマトのアニメは、同時代では見ていないな。デスラ−に憧れているようでは、「地球か。何もかもが懐かしい。」って知らないだろ。


 これに対して”ともだち”は、「魂が進化しているから、もっと前かと思ったよ」と気色の悪いほめ方をして、長髪を喜ばせている。最近のスポーツ・マスコミ等は、選手がちょっとばかり腕を上げたぐらいで無暗に「進化」したと報ずるのが気に入らない。ダーウィンの進化論は正しいというふうな教育を受けてきた者にとっては過大評価、誇大表現である。

 幼い頃のほうが聡明であったらしい私は、進化論の典型的な子供向けの説明であった「キリンの首はなぜ長い?」という適者生存という仮説に疑問を抱いていた。首が長くて有利なら、なぜキリンだけ長いのか。なぜアフリカにしかいないのか。私の大好きな中世代の首長竜プレシオサウルスの首もなぜ長いのか。説明になっていないと今でも思います。


 もう一度、これ何と訊かれた”ともだち”は、ようやく「ある女性の調査記録だよ」と答えた。157ページとその数ページ先の絵を見ると、カセットは20本以上ある。キリコがアフリカから戻って1年も経っていないのに、ものすごい情報量と執着心である。テープを聴いてもいいかと断ってから、長髪はイア・フォンでテープを聴きながら「いい声だ」と言った。関口先生によれば、キリコとカンナは声がそっくりだそうだから、カンナもいい声なんだろうな。

 長髪は「これが、”ともだち”が言っていた女の人の声か」と語っているので、以前からキリコは話題になっていたのだ。どんな風に語られていたか分からないが、ともあれ時系列ではこの場面のあとで諸星さんが絶交され、それに続いて第2集で万丈目が長髪の作ったマニュアルを受け取り、それにしたがって”ともだち”がキリコに接触するという順番のはずだ。


 ちょっと第2集の当該シーンに戻ると、165ページ目の長髪は「今、相手の女性は愛していた男を失って傷心、なわけでしょ。そんな女、あっという間に落ちますよ」と万丈目に講釈を垂れている。長髪の「悪」とは高校時代の放火と窃盗、この時期の殺人、キリコと敷島娘の実質的な誘拐か。単なる粗暴犯であって、巨悪とは言い難い。

 「ある女性」が、高校時代に「正義の味方と認定」した男と姉弟であることを長髪は既に知っており、「世間は狭い」と感慨深げであるが、”ともだち”は相手にせず、諸星さんの写真を見せて「邪魔なんだ」と言った。長髪は本気か演技か知らないが「別れさせろってこと?」と訊いている。だが、”ともだち”からは絶交命令が出た。


 長髪はこれを受けて立ち、これって”悪”だよねと、ここでも悪にこだわっている。”ともだち”は僕の宇宙に善も悪もないと禅問答のような返事をしている。この別れ際に、長髪は興味深い質問をしている。「あなた、こないだの人と同じ人?」と訊かれ、”ともだち”は「どういうこと?」とはぐらかした。

 このように首をほんの少し向かって左にかしげる癖は、フクベエではないほうの”ともだち”の癖で、ときどき出てくる。それに、何度も勝手に私が分類しているとおり、忍者ハットリくんのお面はフクベエ(あるいは、フクベエの替え玉)のみ使っており、フクベエ亡きあとの復活した”ともだち”は目玉覆面しかしていない。


 万丈目ですら、当の本人から言われるまでフクベエと信じ切っていたほどに、すり替わったほうの”ともだち”はキリコが接しても背丈や声までフクベエそっくりであったし、服装も一張羅のまんまであったが、長髪の優男は二人の微妙の違いを嗅ぎ分けたようなのだ。

 だが、彼は「誰でもいいや。どっちにしろ”ともだち”だもん。」という意味不明の結論を出して疑念を引っ込めた。身の危険を感じたか? 後年、やっぱり疎んじられて関東軍のミニともだちに左遷されたのだろうか。ともあれ、このあとすぐに絶交を実行に移したらしく、次のシーンで諸星さんが駅で後ろの正面にいた男に背中を押されて線路に転落する。


 ここは第2集の157ページ以降の再録なのだが、第2集の該当ページに出てくる駅の「1番線ホーム」を示す看板は、実にどうでもよいと言われればそれまでだが、私の目には高崎線に見える。これは大宮と熊谷を結ぶ路線で、関東軍のある熊谷の駅もある。これまで遠藤酒店は世田谷区か新宿区だろうと書いてきたのに困る。

 ちなみに、浦沢さんのご出身地、府中は京王線が走っているが、京王線の看板は角だけ丸っこい黒の四角に白抜きの数字が描かれているので、これは京王線ではない。この下書きを書いている今日、仕事で京王線に乗ったので確かめてきたから間違いない。これはJR東日本の駅でしょう。




(この稿おわり)




益子に行った日は寒くて、手水も凍っていました。 (2013年2月17日撮影)






 振られたての女くらい 落としやすいものはないんだってね
 あんた誰と賭けていたの 私の心は幾らだったの

                     中島みゆき 「うらみます」   いやはや... 













































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