第19集第6話は「大脱走」というタイトルがついている。あの映画を話題にしたのも、遠い昔のような気がする。そのころショーグンが漫画家を連れて脱走中であったが、今はケンヂが漫画家を連れて敵地に乗り込もうとしている。この章の最初の3ページは妙な絵が続くが、懐かしいものも出てくる。
上段は数人の悪役が並んでいる。最初はマグマ大使らの宿敵ゴアだ。スペクトルマンの敵、宇宙猿人ゴリと並んで実写物の悪徳宇宙人として名を馳せた。もっとも科学者ゴリと部下のリー(二人並べると陳腐な命名であることが分かる)のような粗暴なだけの奴ではなく、登場するとここに書かれているように毎回「私の名はゴア」と丁寧に自己紹介する礼儀正しい人でもあった。
その左は前にも触れたが、悪役ながら人気が出たデスラ−総統。人を小馬鹿にしたような薄ら笑いと彼の口癖「ヤマトの諸君」もちゃんと収録されている。松本零士は鉄道だけでなく戦艦も宇宙に飛ばしたのであった。お次はショッカーの戦闘員二人。額の白頭鷲のような紋章は、何代目の仮面ライダーだったか?
ショッカーの戦闘員は「イー」としか言えない。これでどうやってコミュニケーションを取っていたのか不明である。そして実に弱い。そもそも彼らやブルース・リーの相手は強敵と戦うにあたり、なぜ一人ずつ向かって行って、一人ずつ倒されていくのであろうか。せっかく頭数を揃えているのだから、全員一緒に跳びかかるべきであろう。
その隣の目が四つあるのは見覚えがあるけれど名前を知らない。絵の下のコピーライトが「©黄金バット企画」と表示されているので、黄金バットの敵なのだろう。黄金バットの歴史は古く私の記憶はおぼろげだが、よく笑う人だったような覚えがある。悪役の絵が鮮明に描かれているのはここまでで、中段からはそれら無数の画像を見ている人物のセリフに代わる。
すなわち「俺は〇〇だ」というのが四つあって、最初の「ピッコロ大王」を私は知らない。ネット情報によると「ドラゴンボール」の登場人物らしいが、そもそも「ドラゴンボール」を見たことがないのだから仕方がない。その連載は社会人になってからで、一頁も読んだことがない。
次の「ラオウ」なら知ってるぜ。一子相伝「北斗の拳」の登場は衝撃的であった。長兄のラオウは弟のケンシロウに跡継ぎの座を奪われてグレてしまうのだが、これがまた強いんだ。必ずしも悪役とは言い切れない微妙な男であった。人殺しをしても平気なのはむしろ主人公のほうで、お前はもう死んでいると何回言ったことやら。その相手は「私は死にました」という前に爆発してしまうのである。
下段には頭髪をポニーに結った人物の着席後ろ姿だけが描かれている。その者の発言は続いており、今度は俺は黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)でもあるらしい。サイボーグ001から009までと、代々の仮面ライダー(いずれも石森漫画)は悪に改造され、その悪と戦う構成になっており、正義のために裏切るという意味でサダキヨ的である。
最後のタイガー・ジェット・シンは私の少年時代のプロレスラーで、ヒール(悪役レスラー)の代表格であった。中学2年時の英語の先生がこのタイガー・ジェット・シンとよく似ていたため、私たちは彼を「シン」と呼んでいた。このレスラーはその名のとおりサーベル・タイガー気取りで刃物を振り回す危ない男だが、シーク教徒であるためターバンを巻いているときはけっこう可愛い。
次のページになると、声の主は息切れがしたようで「ハアハア」言っている。誰か倒しに来るやつはいないのかとか、俺をここに生かしておいていいのかなどと、どうやら先ほどからずっと独り言を繰っているらしい。少し精神を病んでいないか心配です。この人物の目にたくさんのディスプレイが映り、メロンパンの背中のようになっている。
「俺こそ本当の悪!!」という叫び声の背景に、ゴオオオと関東軍のお城がそびえ立っているから、この人物は城内にいるのだ。間もなくケンヂと合いまみえるであろう。そして次のページ、その城が見下ろす町の一画、熱心に仕事中の氏木氏のアトリエで、ケンヂはギターを弾いている。
(この稿おわり)
先日いただいたドブロク (2013年1月5日撮影)
町のどこかに 淋しがり屋がひとり
今にも泣きそうに ギターを弾いている
「真夜中のギター」
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