おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ワイルド・バンチ (20世紀少年 第619回)

 最初にちょっと余話。昨日、パワー・ハラスメント対策の勉強会に出た。私の年代の男は、体育会系に暴力のシゴキは当然という時代に育ち、職場で怒鳴られ叩かれという体験をしてきたこともあり、現代の職場で問題になっているパワー・ハラスメントの大半について、正直なところ、なぜこの程度で?という違和感がつきまとう。時代は変わったのだ。私はもうどうしようもなく古い世代に属している。

 勉強会の席上、いま騒動になっている女子柔道の話題になった。この問題については、専門家が真摯な議論を交わしているので対応はそちらにお任せするとして、市井のおじさんとしては分相応に言いたいことがある。事情が何であろうと、ひとさまの娘さんを平手打ちにするなど論外。外道である。

 そもそも政府や報道機関がメダルの数でオリンピックの成否を語ること自体が気に入らない。世界のレベルで勝った負けたは時の運。さらに言いたい放題言うならば、私はメダルは勝者だけ(金だけ)で良いと思っているし、金メッキのメダルよりは月桂樹の冠のほうがよほど素敵で、もらえるなら断然、後者を選ぶ。ワールドカップは一つだけ。紫紺の優勝旗も一棹のみ。敗者には拍手を送ろう。

  

 さてと。第19集の73ページ目に出てくる裏通りには「精力薬」とか「春本屋」とか怪しげな看板を掲げた店が並んでいるが、どうやらその一角にスペードの市が経営する店「WILD BUNCH SALOON」がある。「saloon」は酒場。店内にはテーブル席に肩を落として座っている将平君と、その姿をバーの止まり木で酒を飲みながらニヤニヤながめている市がいる。

 私がこれまで観た映画の中で、ワイルドさでは最高級の作品に「ワイルド・バンチ」がある。確か学生のころ名画座で観た。監督はサム・ペキンパー、主役はウィリアム・ホールデンだが、一番印象に残ったのはこの映画で初めてその名を知ったアーネスト・ボーグナインの拳骨を握り絞めたような顔と太い眉だ。


 アーネスト・ボーグナインは長命し、二三年前に有楽町で観たブルース・ウィリス主演の「Red」では、CIAの地下にある機密倉庫の門番という渋い役どころで元気な素顔とチャーミングな笑顔を見せてくれて、あやうく私は泣きそうになった。昨年、95歳で亡くなったとの訃報が届いた。合掌。

 ちなみに、映画のタイトル「レッド」は赤色のことではなくて、「Retired Extremely Dangerous」の頭文字であり、その「引退した実によくねえ危険な男」を演ずるウィルスが、自分の老齢年金の件で相談の電話を架けている場面から始まる。ジョン・マルコビッチが演ずる頭のネジが少しゆるんだ戦士が傑作。


 似たような題名の映画に「Reds」という作品がある。ウォーレン・ベイティ主演、共演はダイアン・キートンジャック・ニコルソンと豪勢だ。テーマは浦和のサッカー・チームではなくて、こちらは本物の「アカ」のことだ。共産主義を毛嫌いするハリウッドに排斥され、米国民にもソッポを向かれて、この映画の制作に全財産を賭けたウォーレンは破産した。大した度胸ではないか。「インターナショナル」の場面が印象に残っている。

 アメリカ政府の赤狩りは、チャールズ・チャップリンさえ国外に追い払った。はるか後年に確執が消えてから、老チャップリンはアカデミー特別賞を受けた。私はその授賞式の映像を観ている。満場総立ち、万雷の拍手の中、ステージに立って周囲を見渡しながらチャップリンは一言、「Beautiful people」とお礼を述べた。


 風雲急を告げ、スペードの市の店に関東軍警察が踏み込んできた。手配中の男がいるとの通報を受けたと背中越しに聞いてしまった将平君は衝撃を受けている。だがまだ序の口であった。通報者は誰かと問う警察に対して、「私です」と市が答えた。将平君は売られたのだ。護送車に詰め込まれて、元同僚に連行される将平君あわれ。

 他方、スペードの市は「すみませんねえ。こんなにもらっちゃって。」と薄笑いを浮かべながら、賞金十万友路を確認している。友路紙幣の裏面には、俺たちのマークが印刷されている。この金を使って彼は何をしようとしているのか。この続きは第5話の「突破者」に出てくる。


 薬屋通りといった風情の街がある。目の絵を描いた看板がたくさん立っていて、つげ義春の「ねじ式」を思い出させる。メメクラゲに刺された主人公は、外科を探して歩き回るが目医者ばかりなのであった。つげ作品では他に「ゲンセンカン主人」が人気のようだが、当方としては「オンドル小屋」も捨てがたい。
 
 スペードの市は薬屋の店内で、バンコクのショーグンみたいな乱暴狼藉を働き、ちょっとばかりイソノさんと似ている店長を締め上げている。市が求めている薬が無いらしいのだ。他に効くのはねえのかと市は粘る。そうやって手に入れたらしき薬の袋を持った市は「ワイルド・バンチ」に戻り、店の2階への階段を上っていく。階上には病人がいるのだろうか。


(この稿おわり)




ひさしぶりにクレーンの写真。なかなか壮観だ。 (2013年1月31日撮影)



























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