今回で第18集は終わりです。表紙にケンヂの顔が大書されているように、主人公が本格的に再登場する巻なのだが、会話が多くて活劇が少ないこともあり、アクション物が好きな読者には物足りないかもしれないが、話題は大事なものが多い。その最たるものがこれから始まる
200ページ目で万丈目が語り始めた3か月ほど前の定例会議は、例の友民党の円卓で行われている。今回は13番目は空いておらず、ちゃんと13人いるのだが男ばかりだ。2015年に集まったときは、2回とも高須と敷島娘が参加していたのだが、なぜかこの場にはいない。
”ともだち”も出席しているのだが、すねたように横を向いており偉そうである。報告内容が気に入らないからだろうか。ウィルスの被害についてなのだが、ヨーロッパでの生存率は48%、アジアでは集計が終わっていないが推測では同程度、最大の被害が出たアメリカでも41%と、いずれも彼らの予想を大きく下回る被害であった。
これも迅速にワクチンをお届けした世界大統領のリーダーシップのおかげですねという予定調和そのもののおべんちゃらで会議は終了。もう解散していいよと”ともだち”は愛想なく閉会を宣言し、出席者は世界大統領に万歳三唱した。今の政治家と何も変わっとらんじゃないか。
他の参加者が退席し、万丈目も資料を整理し終えようとしていたとき、隣席の”ともだち”は背を向けたまま、「そうかあ...そんなに生き残っちゃったか...」と感想を述べた。彼にとっては、ワクチンの配給が早すぎたのか、山根ウィルスの効き目が今一つだったのか、生得の免疫が1%をはるかに超えていたのか、理由は分からないが計算外の事態が起き、目標未達となったらしい。
万丈目は疲れた様子でため息を漏らしている。「もう一回、何かやらなきゃダメかな」と”ともだち”は気にせず独り言を続けている。この「何か」という言い方が私には気になる。ウィルスなら「もう一回やらなきゃ...」と言えば済む。他の手段を考えているのだろうか。ワクチンも配布してしまったものなあ。
「もう、十分だろ...」と万丈目は穏やかな顔つきで意見を述べた。彼は世俗的な成功があれば満足なのであり、「よげん」なんぞに拘りはないのだ。「そのとき彼はつぶやいたんだ。小さな声で」と万丈目はオッチョとカンナに語っている。そのとき「フクベエだったらどうしただろう...」と”ともだち”は言った。
興業大好きの万丈目は、万博開会式で”ともだち”が復活劇を演じたとき、史上最大のショーに酔い痴れてしまい、フクベエの生存を疑わずにきた。だが彼は、第14集の議員会館内で、ともだちマスクの男にバーチャル・アトラクションのヘッドギアをもぎ取られて、強制終了の副作用により鼻血を出している。
オッチョが表現したように、これまで二人が一心同体できたのであれば、この”ともだち”の凶暴な行為をどのように解釈したのか、どうやって自らの胸中で折り合いをつけたのか訊いてみたいものだが仕方がない。万丈目がどこまで「しんよげんの書」の内容を知っているのか分からないが、人類滅亡計画のことを知っていてもおかしくない。
そして反陽子ばくだんのことも知っていたのかもしれない。急ごしらえのシェルターは会議のあとで慌てて作ったのだろう。仮に助かっても、この小部屋で自分ひとり残されても意味がない。彼はここで隠れながら、カンナを使って”ともだち”を葬る計画を立てた。折よく地球防衛軍が人質まで用意してくれたのだ。
人質。アルジェリア。人の命をないがしろにする者に神を語る資格はない。かつての日本もそうだったのだから、今はこれでも恵まれている。やがて、ともだち”は神を語り(騙りか)、世界を滅ぼすと宣言するが、それはまだ先の話である。
本当にフクベエだったら本当にどうしただろう。それはこの先、少年時代の彼らの「しんよげんの書」を巡る言動から考えていくことにする。答えが出るかどうかはともかくとして。それにしても児童Aとしての彼が人類滅亡計画を立てたときは、嘘つき呼ばわりした奴や、自分を苛めた奴に対する復讐心が原動力になっていたらしい。
その程度のことで、すべての人類を滅ぼすのか? この世界は必要じゃないと考えるのか? キリコもカンナも死ぬようなことを彼がするだろうか。山根の殺人は裏目に出たのか。それとも、もう一人始末するつもりでいたのか。山根はもう一人の存在を知らずにいたのか。ともあれ、やくざな親父を持ったせいで、カンナの仕事も荷が重くなる一方である
(この稿おわり)
私も6年3組でした。
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