おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

例の計画 (20世紀少年 第600回)

 第600回記念にこの話題が来たか。因果なものだ。第18集の174ページ目、万丈目エンタープライセスの来客用テーブルに、ナショナル・キッドと忍者ハットリくんセルロイドのお面、そして万丈目にとっては初めて見るものだったはずだが、オッチョ考案のマークが染めてある覆面が並べてある。

 「どれがいい? 僕はこれがいいと思うんだ」と言いながら、ハットリが取り上げたマスクは、やはり忍者ハットリくんのお面であった。映画「20世紀少年」はプロットを変えていて、それはそれで成功していると思うのだが、唯ひとつ、残念ながら”ともだち”が忍者ハットリくんのお面を愛用した理由、「それが言いたくて、あいつは」が消し飛んでしまっている。


 ハットリはお面を顔にかぶせて「どう?」と訊いた。「帰れよ、バカバカしい」と万丈目もこの瞬間までは、一応、社会人であった。だが、ハットリに「プロダクションの経営、うまくいってないんだってね」と痛い所を鋭く突かれてしまった。”ともだち”は諜報が好きな人間だが、世に出る前から人の弱みを握って操る嫌らしさを発揮していたのだ。経営不振の遠因は、この青年にもあるはずなのだが...。

 万丈目はぐっと詰まっている。「悪い話じゃないと思うよ、借金ぐらいすぐに返せると思う。」とハットリは言う。万丈目は煙草を吸うのをやめて真顔になった。何をやろうというんだという彼の問いに対し、ハットリは「忘れちゃったの。例の計画だよ」と言った。万丈目は思い出せない。


 万丈目話の昔話をここまで聴いて、カンナも「例の計画?」と反応を示した。万丈目は「だから言ったろ。この話は長いんだ。長すぎるんだよ」と言う。本人の話し方の要領が悪いのではないのか。もっとも、同時進行で描かれているAPと春さん、マルオの会話の内容も、この長い話の中に含まれているのかもしれない。

 場面は変わって再び1972年。フクベエは小学校6年生か中学校1年生で12歳から13歳になる年。年齢については新聞記事に児童A(12)とある。ここでは冬服のようだし、児童とは通常、小学生のことだからまだ6年3組か。倉庫の敷地のような場所に、フクベエは電話をかけて万丈目を呼び出した。万丈目は怒り心頭に発しており、スプーン曲げの失敗の件で、お前のへマだインチキだと児童を罵っている。


 フクベエはいちいち、ヘマじゃない、インチキじゃないと反論しているが、下を向いたままで視線も定まっていない。あまり正々堂々とした態度とは言えない。第16集で彼が1971年8月31日に万丈目の目前で、スプーンを曲げて見せたときは、私の老眼にはどうみてもインチキには見えないのだが、なぜ虚偽とみなされたのか真相は闇に包まれている。

 それよりもフクベエには重大な用件があったのだ。彼はテレビに出ることを吹聴して歩いたらしく、放送自粛の結果、嘘つきといじめられ、児童Aはおまえだろうといじめられたらしい。散々サダキヨをいじめておいて、これで少しは人の心の痛みが分かったか。


 だが、万丈目の「実際そうなんだから、しょうがねえだろ」という至極真っ当な反応に対して、彼は「僕は、児童Aなんかじゃない」と変てこりんな反論をしている。かつて顔をなくした少年は、今般、名前もなくしてしまって怒っているのだ。この先、彼は顔も名前も伏せて活動することになる。そこまでグレたか。表情がまた暗く澱んでいる。

 「例の計画、実行するからね」とフクベエは宣言した。目的は復讐だという。復讐の対象は彼をうそつき呼ばわりした奴、いんちき呼ばわりした奴、僕をいじめた奴。最初の二つは万丈目も該当するし、テレビ局も同様であろう。最後のは6年3組の同級生たちなどか。四方八方、敵ばかりだ。


 万丈目は馬鹿らしくなったらしく、背を向けて勝手にしろと言い捨てた。その後ろ姿に向かってフクベエは必死に叫んでいる。実行するときは必ず連絡する(このときから万丈目をあてにしていたのか)。嘘はつかない。絶対にやってみせるから、例の計画!!。

 そして最後に「例の計画」を具体的に発表したときには、もう万丈目は声の届く範囲にはいなかっただろう。「例の」とは「世界征服と人類滅亡計画」であった。世界征服だけならモンゴル帝国ヒトラーもショッカーも考えただろうが、人類滅亡計画というのはかつて人類史になかったのではないか。

 自分と仲間が生き残っては論理矛盾で人類滅亡にならないから、これには必然的に自殺行為も含まれる。本当にフクベエはそこまでやる気があったのか不明のまま、計画半ばで死んだ。その「後任」もよく知らなかったようで、フクベエだったらどうしただろうと悩んでいる様子である。でも、それはまだ少し先の話。万丈目はまだまだ喋りたいのだ。



(この稿おわり)




私が通った幼稚園。残念ながら閉鎖されたらしい。 (2013年1月3日撮影)





 Nobody loves you when you're down and out
 Nobody sees you when you're on cloud nine
 Everybody's hustlin' for a buck and a dime
 I'll scratch your back and you scratch mine

 All I can tell you is it's all show biz
 All I can tell you is it's all show biz


   おまえがへこたれているときは誰も愛してくれない
   おまえが有頂天でいるときは誰も見てくれない
   誰もが金儲けに血眼で、俺たちは背中を掻き毟り合う

   俺に言えることといえば、何もかもショー・ビジネスだ
   俺に言えることといえば、何もかもショー・ビジネスだ

   ”No Body Loves You” John Lennon



































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