おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

8月20日になれば彼女は (20世紀少年 第571回)

 第17集も終盤になると、ようやく物語が再び活気づいてくる。第10話「夏休みの宿題」は、東京のどこかにある繁華街の地下名店街の一画から始まる。かつては東京土産やお弁当を売っていたらしいが、今は氷の女王一派のアジトとなっている。今のところは。

 ここで胸を張って威張っているのは、「難攻不落と呼ばれた18番下水道を貫通させた」自称ヒーローだが、あいにく同志一同は食事中で、くさいからあっち行けとか、とにかくシャワーあびてこいなどと冷遇されて、男は「ムキー」と怒っている。だが、そんな彼に拍手喝采を送ってくれたのはカンナさんであった。


 彼女は少し離れた丸テーブルにサナエと一緒に座っている。飲み物が置いてある。サナエの表情は冴えない。ふたりとも曙橋の寿楽庵から早速、移ってきたのだろう。だがこのアジトの所在も、当然スパイ中川くんから敵に伝わっているだろう。移設しなければならないが、仲間をほめるカンナの表情はいつになく明るい。

 いつかテレビのドキュメンタリー番組になるよとまで声をかけて、ヒーローを感激させている。プロジェクトXみたいな感じになるんだろうな。本当にこの夏はよく働いたなと若者の一人が言う。これから撤退しなければならないが、彼らには楽しみが待っているのだ。


 第10話のタイトル、「夏休みの宿題」は、彼らがガキのころ夏休みの勉強を怠り、8月20日ごろから憂鬱になってきたという古事に由来している。バーチャル・アトラクションの情報が正しければ、モンちゃんは8月31日になってもまだ宿題が済んでおらず、気もそぞろで水槽のブクブク・スイッチを入れ忘れた。山根によれば、その夜の行動がドンキーの死を招いた。

 思い出話に花が咲く一同に向かって、サナエは意を決して話しかけている。8月20日の作戦計画は敵に筒抜けになっている。「お願いです。中止してください。8月20日武装蜂起は失敗します」とサナエは言った。彼らはしばらく黙っていたが、中の一人が穏やかに「俺達は8月20日のために生きてきた。だから苦しい日々を生きてこられた」と応じている。


 黙って聴いているが、カンナも同じ思いだろう。そもそも、ここでサナエに言われるまでもなく、深夜の放映終了後とはいえ、テレビで8月20日武装蜂起すると公言してきた彼らなのである。敵が知っているのは先刻、承知の上なのだ。

 攻撃目標は明確に示されていないが、カンナの発言からして18番下水道貫通の目的が「”ともだち”センタービル」の地下に出るためだったようなので、地下道から”ともだち府”の内部に侵入して破壊活動を行おうとしているのではないか。地上の警戒は厳重だろうからな。


 ケンヂたちが地下に潜伏した1997年、ペルーの日本大使公邸を占拠し人質をとって立てこもった左翼テロリスト集団トゥパク・アマルに対し、ペルー国軍は地下道を掘り公邸内部に突入して人質を救出した。

 場所が場所だけに人質の多くは日本人だったが、犯人以外でこの救出作戦により亡くなったのは軍人2名、人質1名、計3名のペルー人だった。ご冥福をお祈りします。忘れません。さて、サナエはまだ諦めていない。荷物を片づけると言い残して離席したカンナの後を追った。




(この稿おわり)



自宅のポインセチア (今朝撮影)




 August, die she must. The autumn winds blow chilly and cold.
 September, I'll remember a love once new has now grown old.


   8月になれば彼女は死を迎えることになる
   冷たい秋風が吹いて冷える日に

   9月になっても私は忘れないだろう
   かつて みずみずしかった愛も
   今や色あせてしまったことを

   ”April Come She Will” by Simon and Garfunkel












































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