おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ワクチン接種の跡 (20世紀少年 第541回)

 第16集64ページ目。どうやってここが分かったのかと訊かれ、サナエはゲンジ一派の人にカンナへのメッセージを頼まれたと答えた。カンナの目が光る。メッセージとは、武装蜂起は中止しろ、ゲンジ一派にも氷の女王一派にもスパイが潜入しているというもの。

 このうち、カンナが一番驚きそうだった身内のスパイの件について、彼女は意外にも見当がついているから大丈夫だと言った。サナエはメッセージを託した男の最期について涙を浮かべて語る。カンナの表情が暗い。それでも彼女はサナエに謝辞を伝え、もうそのような犠牲者を出さないように、この世界を何とかしなくてはと言っている。


 サナエは大役を無事果たし終えたし、それにカンナもきちんと聴いてくれたので安心したのか、うえ〜と泣き出してしまった。ちょうどそのときお代わりのソバを届けに中川くんが部屋に入ってきて、サナエの泣き声に驚いた様子だが、カンナが冷静なのを見て、そのままソバを卓袱台に置いた。

 カンナがこれから始めようとしている中川くんとの恐ろしい会話と、その後の厳しい処置について、初対面でまだ若いサナエという娘のいる前で実行しようとしたのはなぜだろう。たぶん、犠牲となった男がサナエに託したスパイ情報が正しかったことをこの場で伝えるべきだと思ったのだろう。カンナがすでにスパイ放逐を決意済みであったことは間もなく分かる。


 サナエに向かって「あなた、万博の開幕式、行ったのね?」とカンナは言った。サナエは家族みんなで行ったので、全員にワクチンが送られてきたと答えている。東京都内に強制移住させられて、かえって助かったのかもしれない。壁の外にいたら、大変な目に遭ったかもしれない。その件については、オッチョの詳細なる報告を待とう。

 サナエは右腕の袖をたくし上げて、ワクチンの接種の跡を見せた。中川くんも僕と同じところだと笑って、同じように跡を見せている。後で出てくるがカンナも右腕。不思議なことに、この3人はいずれも前後の絵からして右利きなのだが、接種跡はいずれも右腕である。


 予防接種や採血の注射は、あとで腫れたり痺れたりすることがあるからだろうか、通常、利き腕とは反対側にするものだ。自分自身で注射器を持つときも、当然ながら利き腕で扱い、反対の腕に注射するはずだ。右腕でしか効かないワクチンというものがあったら、世界初だろうな。

 もっとも、私は右利きなのだが、一つだけ右上腕部に子供のころの予防注射の跡が一つ残っている。なぜこれだけ右なのか、理由は知らない。左腕にも丸い跡が二つ。この三つは半径5ミリ以上もあるものだが、何の病気の予防だったのか全く覚えていない。今の予防接種の跡も、こんな風に50年近く経っても消えないのだろうか?


 これらとは別に、一番目立つのはBCGの跡で、例の9×2=18個もある家畜の烙印みたいなものだ。当時はツベルクリン反応が出たらBCGワクチンという手順で、私の場合は小学校の2年生か3年生で反応が出てしまったのだ。この活け花の剣山のごとき注射の後、何日もの間ひどく膿んだり腫れたりして散々であった。

 もっとも、BCGから逃れていた友人の一人は、サッカー部のレギュラーを狙っていた高校2年生のときに肺に影が見つかってしまい、1年間はスポーツ禁止という大変、気の毒なことになった。百年ほど前、拙宅のそばを歩いていた正岡子規樋口一葉滝廉太郎も、結核で亡くなっている。
 
 この剣山スタンプのおかげで、かつては死病であった結核にまず罹らないのだというから感謝すべきなのだろう。星形のような不思議な形状の彼らのワクチン接種跡も、死のウィルスから命を守ってくれるのだから有り難いものである。ただし、中川くんにとっては動かぬ証拠にもなってしまった。



(この稿おわり)




看板二つ。
上は先日、運転免許の更新をしてきた所。あやうく視力検査で落ちるところでした。
下は近所の中華料理店。美味しそうでしょう? 美味しいのです。





































































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