おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

クロスタウンター (20世紀少年 第530回)

 単行本の各巻には副題があり、第11集は表紙の左下に白い活字で、「クロスカウンター」とある。第11話のタイトル、「十字路の遭遇:クロスカウンター」から採られたものだ。

 ここの「クロスタウンター」は、十字路の「クロスロード」と、遭遇の「エンカウンター」をかけてある。本来はボクシング等のスポーツ用語で、クロスは腕を交差させること、カウンターはサッカーと同じで相手の攻撃の勢いを逆利用する戦法である。


 アニメとマンガで一番印象的なシーンは何かと問われたら、ひとは迷うかもしれないが私は幸いなことに即答できる。アニメは「巨人の星」。阪神タイガースの若きスラッガー花形満が、宿敵・星飛雄馬のウィニング・ショット「大リーグボール1号」を、横殴りの強打一振りでレフト・スタンドに叩き込んだ場面である。あれは凄かった。昨日のことのように覚えています。

 スポーツ漫画は、やっぱし主人公に勝るとも劣らないライバルがいないと話にならないというのが昔の常識であったように思う。花形とかお蝶夫人とか力石徹とか。マンガで一番印象的なシーンは「あしたのジョー」において、その力石がトリプル・クロスカウンターで矢吹をリング・マットに沈めた場面である。


 筋を語るのでご注意ください。しかも漫画本を実家に置いたままで手元にないため、記憶違いで細部に誤りがあるかもしれません。先にプロ入りした力石は過酷な減量に耐えて、矢吹と戦うためバンタム級に乗りこんでくる。矢吹にはノーガード戦法、通称「両手ぶらり」という厄介な技がある。相手が打ってきたらクロスカウンターで反撃するという待ち受け型の作戦なのだ。

 相手がジャブやボディで攻めてきたら困るのだが、そのときはそのときなのだ。しかし、力石は「そのときはそのとき」を凌駕するため、アッパーカットに磨きをかけた。アッパーではクロスを返せないのである。力石のアッパーカットは相手の顔をこすった程度で切り傷を与えるほどの威力を帯び、かみそりアッパーと呼ばれるに至る。


 戦いの日は来た。バンタム級セミ・ファイナル。力石のアッパーカット攻撃に矢吹は劣勢に立たされるが、ここでジョーは(情けないことに彼が何をしたか忘れたが)、アッパーをかわして力石からダウンを奪う。力石の不運は、このときリングの隅のほうにいたため、倒れた際にロープで後頭部を強打した。

 それでも力石は立ち、矢吹のマネをしてノーガード戦法に出た。これには驚いたね。でも、お客さんはだんだん怒り出した。お金払って拳闘を見に来たのに、リング上の二人は両手ぶらりのまま睨みあっているばかりだからな。罵声が飛び交う中、焦るジョーは一つの作戦を立てた。自分が打つ。力石のクロスを交わして、ダブル・クロスで勝負を決める。


 クロスカウンターが、相手の勢いを利用して2倍の威力を発揮するなら、ダブル・クロスはその二乗の4倍の威力を発揮するというのがマンガ上での設定である。ヤン坊マー坊のダブル四の字が、十六文字固めになるのと同じ理論であろうか。

 矢吹は左を打った。もくろみ通り力石は右のクロスカウンターで応戦する。ジョーは左ひじで力石の右をはじき、右ストレートのダブル・クロスを放った。しかし、そこにいたはずの力石は腰をかがめ、一撃必殺となるはずだった矢吹のパンチは空を切った。バランスを崩したジョーのガラ空きの顎に向かって、かみそりアッパーのトリプル・クロスカウンターが襲う...。


 第17集に出てくる「あしたのジョー」関連の材料は、副題の「クロスカウンター」のみならず、最終頁に「矢吹丈」と自称する不審な男も出てくる。そして、58ページ目、氷の女王こと遠藤カンナが読んでいる週刊少年マガジンは年代物のようで、開かれたページに描かれているのは力石徹矢吹丈の最後の決闘シーンである。




(この稿おわり)















































































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