おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ゲンジ一派と氷の女王 (20世紀少年 第517回)

 第16集の149ページで、半端にデモなんか行くな、痛い目にあうぞとオッチョに言われたサナエは、自分が中途半端な動機でデモに行ったのではないことを伝えようとしている。彼女は「政治犯を救うために必死に活動している組織」に入りたくて、その情報を得ようとデモに行ったようだ。

 すなわち、サナエは内藤先輩が政治犯扱いされて、囚われの身になっているのではないかと疑っているらしい。2015年の正月に”ともだち”が死んだとき、海ほたる刑務所その他から、恩赦により政治犯などが釈放されて市原弁護士を呆れさせていたが、時代はそれ以前の悪夢のような警察国家に逆戻りしていたのだろう。


 オッチョが驚いたことに、その組織の名は「ゲンジ一派」というらしいとサナエは言う。かつての「ケンヂ一派」と似ているな。さて、私はヨシツネの下の名前を知らない。だが彼の通称がヨシツネであったことは、ヴァーチャル・アトラクションにも出てきたし、フクベエは同級生だったのだから苗字が皆本であったことも知っている。”ともだち”一派に彼の名字は知られていて当然であろう。

 したがってヨシツネが自ら「ゲンジ一派」と名乗ったら、地下組織のくせにリーダーが自己紹介しているようなものだ。この「ゲンジ一派」も、このあと出てくる「氷の女王」という冷たい呼び名も多分、”ともだち”一味が勝手に命名して世間に広めたプロパガンダの一環だろう。なんせ、彼らの情報はスパイにより当局に筒抜けだったのだから。


 オッチョはヨシツネが生き残っている可能性があることを知った。自分が「最後の生き残り」ではないかもしれない。秘密基地の仲間の尋常ではない「しつこさ」について、さすがの彼も少しばかり過小評価していたのかもしれない。

 だが、そのあとでサナエが、もう一つの別組織についてもたらした情報は、聞き捨てならないものだった。そちらの組織は「とても恐ろしい」もので、「”ともだち”の暗殺」を企んでいるらしい。リーダーは若い女でカリスマ性があり、「超能力だが予知能力だかがあるんですって」なのだ。ここまで聞けばオッチョでなかろうと、私でも誰だか分かります。


 しかし、サナエはその若い女の名前までは知らない。ただ、「そのリーダーはものすごく冷酷」であるため、みんなして「氷の女王」と読んでいるらしいのだ。ただし、後に分かるがカンナの周囲は「カンナさん」と呼んでいる。オッチョは無言である。彼の心当たりは最後の希望でもあるが、常に元気すぎる爆弾娘でもある。

 次の日の朝だろうか、朝食時にカツオはじいちゃんに向かって、ハルク・ホーガンって知っているかと訊いてサナエを慌てさせている。じいちゃんいわく「緑色のでっかい奴だあ」であり、「怒らすと怖いぞお」らしい。じいちゃん、今回は超人ハルクと混同している。サナエとカツオは仲良く朝食のおかずを隠した。サナエもオッチョに好意を持ったらしい。


 今日は与太話で終わろう。ハルク・ホーガンも含め、プロレスラーは商売柄、容貌魁偉な男が多いが、その筆頭は何と言ってもアンドレ・ザ・ジャイアントであろう。以下はもう遠い昔のことなので話半分にお聴きいただければと思う。30年前、大学の卒業旅行で北海道に2週間の一人旅に出かけ、最後の夜は札幌で過ごした。

 彼の地にはサッポロのビール園という魅力的な施設があると聞き、晩飯はそこで飲み食いしようと決めて出かけていった。ふと見るとビール園の壁に数日前の新聞の切り抜きが貼ってあった。その前夜、このビール園にアンドレ・ザ・ジャイアントが訪れ、大ジョッキを100杯空けたのだという。


 今の大ジョッキは750mlが主流だが、当時は1リットルだった。それを100杯。しかも文面からして、そこでとうとう飲み潰れたのではなく、切りが良い数で止めて帰ったようだ。単に酔いたければもっと強い酒を飲めば良いのであって、この酒は周囲を驚かせ喜ばすためのパフォーマンスだろう。

 この賑やかな興業を僅か数日の差で見逃すとは、まことに残念なことであった。アンドレ・ザ・ジャイアントが若くして亡くなったのは、さらに残念なことであった。合掌。



(この項おわり)



蜘蛛と雲 (2012年10月20日撮影)
















































































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