第16集の122ページ目に、ともだち府の巨大なタワービルが登場する。すでに「ともだち暦」は3年目を迎えている。このビルの外観も、例によって趣味の悪いデザインである。彼らが過去、使用した可能性がある「VX」という毒ガスを彷彿させる。
その下に民家が軒を連ねているのだが、これがまた古い。第16集の最初に出てくる虹の場面の絵を見ると、ケンヂたちの町の民家は、見渡す限り瓦屋根である。これは同時代の私の記憶と一致する。昭和四十年代の地方都市、静岡の郊外ですら、屋根はたいてい瓦ぶきであった。
ところが、”ともだち”が見下ろしている、ともだち暦3年の東京では、家屋の半分以上が、おそらくトタン屋根である。風で飛ばないように大きな石が置いてある家もある。これまで見てきた1968年から1971年のケンヂたちの町において、トタン板に石を乗せていた家は、ドンキーの木戸家のみであった。彼いわく「旅費なんか逆さにしても出ない」貧しさだった。
家並みだけではない。私は1960年(昭和三十五年)の生まれ。浦沢直樹氏と同じ年。私は街頭テレビを見たことがない。力道山は3歳のときに亡くなっているので、私は彼の現役時代を覚えていない。私より一学年下と思われるヤン坊マー坊が、ライジングサンを「レトロすぎる」と言っているが、全く同感である。
フクベエがヴァーチャル・リアリティで再現したのは昭和四十年代だったが、この”ともだち”が現実の東京で再現したのは、私も伝聞でしか知らない昭和三十年代の前半か、もっと前の日本だ。この”ともだち”の真意は全く不明である。
そんな見せかけの町で、123ページから新しい場面が始まる。当面の主人公はサナエとカツオの姉弟、そして「ただのオッチョ」の3人である。サナエとカツオは、ずっと前に出て来たフジヤマトラベルのイソノさん以来、久々のサザエさん関連人物である。
カツオは有りそうな名前だが、さすがにサザエでは露骨すぎたか、姉の名は良く似た穏当なものに変えてある。例によって私は名前の出所を探ろうとしている。サナエさんという有名人に心当たりはないが、「さなえちゃん」とくれば古井戸である。
好きだったな、この歌。小学生時代に流行ったこの歌で、私は「大学ノート」という言葉を知った。メンバーの一人、仲井戸麗市は後に、RCサクセションでギターを弾いた。代表曲「雨上がりの夜空に」のご機嫌のリフは、彼の演奏だろう。
ついでに、もう一丁。のちにカツオと悪友がこっそり観ている「イレブンいい気分」は、かつて大人気だった深夜番組名と、今でもあるコンビニエンス・ストアのキャッチ・コピーをごっちゃにしたものだが、前者の「イレブンPM」には、朝丘雪路が出ていた。私が知る唯一の「ユキジ」さんである。
(この稿おわり)
垣根越しに柿の実 (2012年10月20日撮影)
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