おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

福音 (20世紀少年 第497回)

 第16集の第3話は、「本当の首吊り坂」というタイトルである。これは第8集から第9集にかけて描かれているヴァーチャル・アトラクション内の首吊り坂の事件が、実際は「1970年の嘘」であることに由来している。どんな嘘があったのか見ていこう。「すごいよ、みんな話しているよ」と興奮気味のサダキヨのレポートから始まる。

 みんなの話とは、「首吊り坂の屋敷に本当に幽霊が出たって」というものだ。サダキヨは、「僕らの仕掛けたテルテル坊主で、みんな大騒ぎだ」と断言している。本当にそうなのか、それはこれからのお楽しみ。なお、フクベエが「テルテル坊主」という表現を否定していないのが面白い。


 フクベエは、例によって「くくく」笑いをしながら、「とりあえず、お面とれよ、サダキヨ」と余裕を見せている。サダキヨの報告によると、幽霊の話をしていたのは、八百屋の店先のおばさん達、本屋で大学生のお兄さんたち、喫茶店(さんふらんしすこか?)の入り口で、おじさんとお客さん(まさか万丈目か?)。

 もっと調べてこいと”ともだち”に言われたサダキヨは嬉しそうだ。そして、出がけに彼は大事な件を報告漏れしたことに気付いた。「オッチョとケンヂ達が話してたって。」とサダキヨは言い添えた。伝聞情報に過ぎないのだが、フクベエは「ケンヂが」と何度も繰り返し、すっかりご満悦の体である。どうやら最高の福音であったらしい。


 福音というと重々しい感じがするが、要するに良い知らせである。ご存じの方も多いと思うが、エヴァンゲリオンというのはギリシャ語で福音のことです。アテネに旅行したとき、街中にエヴァンゲリオン駅があったのには驚いた(現地の発音は知りません)。新約聖書の原典は、当時欧州の共通語であった古代のギリシャ語で書かれている。英語ではゴスペル。

 私は中学から大学まで部活や麻雀に忙しく、マンガやアニメからすっかり離れてしまった。社会人になったからは尚更である。このため、ガンダムエヴァンゲリオンも全く知らない。「新世紀エヴァンゲリオン」と聞くと、「地獄の黙示録」の本来の直訳である「現代の黙示録」を思い起こす。


 第16集の64ページには、再びフクベエの日記が登場する。日付は8月31日で、天気は◎だから曇り。明日は始業式というこの日も彼は大阪にいて、コロンビア館とバチカン市国館に行ったことになっている。アサヒグラフ増刊号によると、コロンビアは世界最大といわれる緑色の宝石エメラルドを展示したらしい。

 バチカン市国館では、この万博のために門外不出のラファエロ作のタペストリー3点をカトリック教会が展示した。これは観たかったな。うちの知事もオリンピックの招致ばかりではなくて、一緒に万博もやったらどうだろうな。前代未聞の大騒ぎになること必定である。


 ちなみに、フクベエがソ連館で見たことになっている「ソユーズ」とは、今もロシアが使っている由緒ある宇宙船の名前です。第7集の63ページで、オッチョがアメリカ館のアポロ月着陸船は模型だが、ソ連ソユーズやボストークはどうやら本物らしいと語っている。これは正しい。

 アポロ11号の月着陸船は、確かに本物ではなく「同型機」であった。米国を責めてはいけない。月着陸船は、帰還時に月の周回軌道に置き去りにせざるを得なかったのだ。今も月の周りをまわっているか、月面に墜落したはずだ。アポロ8号の司令船は本物で、大気圏を突き抜けて還って来たものが展示されている。「月の石」は、アメリカによると本物。


 ソユーズは第4号と第5号がドッキングした状態でソ連館に展示された。今では珍しくもないドッキングだが、人類史上、初めてのドッキングは、このソユーズ第4号と第5号が成功させた。ソ連がここまで大阪万博に力を入れたのは、単にアメリカほか西側諸国に張り合っただけではなく、1970年がレーニン生誕百周年だったからでもある。

 さて、「学校が始まったら、クラスのみんなに万博の話をたくさん」とニセモノ日記に書き進めたところで、フクベエは玄関先から「フクベエー」という間延びした呼び声を聞いた。彼は本当に驚いた様子であり、再び「まさか」と繰り返しながら、またしても「あさがお」に乗って来訪者を確認している。まさかのケンヂであった。




(この稿おわり)




ご近所の朝顔 (2012年9月24日撮影)
























































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