おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

血の大みそか 再考 (20世紀少年 第495回)

 気まぐれブログもここに極まれり。今回はずっと昔の話題に戻って、時は2000年12月31日、後に「血の大みそか」と呼ばれることになった世界同時多発テロについて、気になっていたことをもう一度、考えてみる。ケンヂは、あれほどの大爆発の中で、どうして生き延びたのか。

 本サイト右下の「最近のコメント欄」にあるように、「chibineko」さんから有り難いお知らせがあり、映画版の「20世紀少年」が「金曜ロードSHOW!」(午後9時より)で、10月12日(金)から3週連続で放映されるそうです(劇場版、DVD版で使われなかった映像も追加した特別編集とのこと)。

 
 この映画版は、かつて「さっち」さんから頂いたコメントによれば、ケンヂが乗っていた巨大ロボットの操縦席はシェルターのようになっていたらしい。これはこれで映画を楽しみにするとして、原作の漫画では、そのような明快な説明はない。したがって、私が勝手に考えてよい。

 いま小欄は第16集に取り掛かっているが、この前半は過去に出てきた事件に関係することが多いので、前の巻を読み返す機会が多い。先日は第12集を見ていたのだが、第12話「ともだちの顔」に血の大みそかの夜、ケンヂとフクベエが対峙する場面が再登場する。


 最後にケンヂが「おまえが!!」と叫んだ時点で、彼が仕掛けたダイナマイトのタイマーと思われる時計の針は、深夜0時のまだ手前にある。その次のコマで大爆発が起きている。疑いの目で見ると、これではケンヂのダイナマイトが爆発したという確証にはならない。

 ”ともだち”の一味は、生物化学兵器ばかりではなく、爆発物の取り扱いも得意であった。1997年に羽田空港を爆破(バクダンの使用は、ケンヂ少年の発案だ)、2000年12月に入って国会議事堂、血の大みそかの当日には、海ほたるがある東京アクアラインも爆破している。殺人だけではなく、器物損壊も常習犯なのであった。


 第12集の爆発場面の絵を見ると、ケンヂが乗っていた巨大ロボットは、本体右側からの爆風を受けて、左側に吹っ飛んでいる。第8巻によれば、ケンヂは操縦席内にダイナマイトを仕掛けたはずなのだが、それが大爆発を起こしたのなら、こういう倒れ方はしないのではないだろうか。

 それにショーグンが角田氏に説明した当夜の状況によれば、ロボット本体の頭部は単なる気球に過ぎない。布製であり、窒素ガスが漏れて音を立てていたのだ。その程度の外郭がダイナマイトの爆風に耐えて、ロボットが横倒しになるとは到底、考えられないものである。


 第5集に出てくる血の大みそか当日のラジオかテレビの報道によると、「火災発生!! ビル倒壊による火災が、都内数か所で...!!」とある。私はこれが、巨大ロボットの移動の巻き添えにあったものだけだと思い込んでいたのだが、考えてみればそうとは限らない。

 ケンヂたちの地下水道の秘密基地に踏み込んだ警察の報告によると、「大量のTNT火薬」ほか武器弾薬が押収されており、ただしメンバーはおらず、「いまだ相当数の武器、弾薬を所持し、逃走中」とみられている。「そんなに持っていたら苦労しないぜ」とモンちゃんンがぼやいているが、かくのごとく冤罪は巧妙に仕組まれていたのであった。


 第12集の横倒しの絵に戻ると、真ん中と左側のコマで大爆発が起きているのは、新宿西口の超高層ビル街である。一流商社マンだった若き日の落合長治氏はバブル全盛のころ、このあたりで働いていたのだ。第4集の108ページ目に、そっくりの絵が出てくる。私も三十代のころ、ここらで働いたり、サボったりしていました。

 真ん中のコマの中央にある裾広がりの建築物は、日本初の超高層ビル、京王プラザホテル。左側のコマの中央は、日本で二番目の超高層、新宿三井ビル。その右隣はケンヂが最初にリモコン操縦者を捜しに出かけた新宿センタービルで、その奥が野村、三井の左が住友の三角。2014年のカンナ登場以降の新宿ビル群の外観は、これらと全く異なる。


 さて、第8巻の第2話の最後、巨大ロボットとニセモノの太陽の塔が、真正面に向き合っている絵がある。かつて私はカメラと地図を携えて現地まで行き、この場所が「西新宿2丁目」の交差点であることを特定し、このブログの何回目だったか忘れたが、現場写真まで載せた。これには自信がある。

 ロボットと塔の間から奥に向かって伸びている中央分離帯のある道路は「東通」といい、これをまっすぐ北(ロボットの右方向へ)進んだところに、京王プラザホテルや三井ビルは建っている。当日、京プラほか西新宿の超高層ビルをほとんど吹っ飛ばすような大爆発による爆風が東通を抜けて、巨大ロボットの右側に衝突し、ロボットを甲州街道の南側(ロボットの左側)に吹っ飛ばしたようだ。


 そして、もしも運よくこの転倒により、あるいは、慣れぬケンヂの設置ミスにより、彼が仕掛けた時限爆弾のセットが作動せず、ダイナマイトが爆発しなかったならば、ケンヂが生き残ったとしても決して不思議ではない。映画がどうやって、ここを解決しているのか楽しみだが、ともあれ原作は、こう考えても矛盾しないのではないかなあ。

 でもまだ、問題が残っている。「原子力エンジン」はどうなったのか。第7巻で自衛隊のヘリが、巨大ロボットの頭部てっぺんに「放射能マーク」を見つけている。私には扇風機にしか見えないデザインなのだが、ともあれ、本来の色は三つの扇が黒で、地は黄色、黒い三角の囲みがある図記号である。


 ”ともだち”が原子力にこだわったのは、”よげんの書”によると、巨大ロボットの正式名が、「原子りょくきょだいロボット」だからである。「ロボット会議」で、そう決まったのだ。爆破すると危ないというオッチョからの連絡を受けたケンヂは、「こんなガラクタのどこに原子力なんか使ってるんだ」と相手にしていない。ともあれ、核爆発や放射能漏れが起きた形跡はない。

 結局、ロボットが爆発しなかったので原子炉は壊れずに済んだのか、それとも、ケンヂの言うとおりハッタリだったのか。昨年来の経験からすると、原子炉は修理や撤去をする技術がなくても、製造と運転はできるようだから、案外、本物だったのかもしれない。でも、カンナによると、事後「大慌てで埋めつくされた」そうだから、やっぱりニセモノかな。





(この稿おわり)





午後の六義園にて。 (2012年9月17日撮影)















































































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