おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

のっぺらぼう  (20世紀少年 第490回)

 かって、怪談といえば夏の風物詩であった。テレビでもマンガでも、「怖い話で震え上がれば、少しは涼しくなるはずだ」という根拠の薄い信仰のようなものがあって、扇風機が一台とウチワが数枚しかないような我が家ほか一般家庭において、広く冷房器具として用いられていたものである。

 その後、エアコンなどの普及とともに、過去の遺物となりにけり。お化けにも、いろいろある。空想上の怪しげな連中を総称して妖怪とも呼ぶ。「ゲゲゲの鬼太郎」や「どろろ」で全国の子供たちにもお馴染みになった。


 小豆洗いや座敷童のような人間型もあるし、唐傘お化けとか一反木綿のような生活物資型もある。妖怪の代表格は河童であろう。「どろろ」は怖いが、一般的には、どこか愛嬌がある。

 これらとは別に、幽霊というのもいて、こちらは通常、死んだ人の霊魂のみが成仏できずに残る。番町皿屋敷のお菊と、四谷怪談のお岩さんが両横綱か。丸山応挙の絵にあるように、なぜか連中には脚がないらしい。後年、ケンヂも話題にしています。


 そして女が多いような気がする。妖怪より幽霊のほうが怖いな。英語でお化けはモンスターというのだろうが、幽霊はやっぱり別扱いでゴースト。 のっぺらぼうは、どうか。我々の世代は、小泉八雲の「貉」(むじな)で、これを知ったと思う。

 今でも、絵本やお話しで幼児にちゃんと伝承されているのだろうか。小泉八雲の作品は著作権が切れているので、ネットで読むこともできます。勧善懲悪でもないし大団円でもないし、その後どうなったかすら分からぬ。


 これは怪談というより民話に近い。昔は不思議なことがあると、身近な野生動物だったキツネやタヌキやムジナのせいにして、けりをつけてしまうか、面白ければ語り継いで昔話になったか。柳田国男の「日本の昔話」にも、これらが人を小馬鹿にしたり、退治されたりする話がたくさん収録されていて、私の好みは「狐が笑う」。

 ちなみに、小泉作品の主人公が登った紀の国の坂は、今も東京都港区にある。弁慶堀あたりから、迎賓館の方向に走ったものと思われる。今はニューオータニがあるので明るいが、昔は真っ暗だったそうだ。上智大学の手前で右折すると、大久保利通が殺害された紀尾井坂に出る。


 「20世紀少年」に、のっぺらぼうが登場する意味がさっぱり分からないので、ここでは無用な雑談ばかりしている。せめて、登場場面の整理でもしよう。その1、フクベエがガラス窓や鑑に映った自分の顔が、のっぱえらぼうに見えたシーン。第16集の第2話と第3話のそれぞれ最後ページに出てくる。最初は夏の街角、次は夜の首吊り坂屋敷。本人の心理状況のせいなのか、はたまた変身の瞬間芸でも使えたのか。さっぱり分からん。

 その2、「21世紀少年」に出て来て、ナショナルキッドのお面を外し、ケンヂを驚かすヴァーチャル・アトラクション(VA)の少年。その1のフクベエとの関係は、今の私には不明のまま。第14集のVAでコイズミが見て驚いたお面の下の顔は、このシーンから類推して、のっぺらぼうではなかったかと書いたが、それが正しいとしても(でも、髪はあるんだよなー)、なぜ、のっぺらぼうであるのか依然として見当がつかない。


 その3、第16集には首吊り坂の屋敷で、のっぺらぼうを見たと驚き恐れて逃げる者が二人出てくる。ひとりは、フクベエとサダキヨがテルテル坊主を仕掛けて、待ち受けていたときに現れたカップルの男。もう一人は、肝試しの日に最後まで屋敷に残ったサダキヨである。二人とも、鑑に映るフクベエの顔を見て驚いたのか、他の何かを見たのかもよく分からない。

 その4、これも難解なのだが、首吊り坂に出るお化けは「のっぺらぼう」と噂されていたのではない。第8集のVA内で、オッチョ少年が説明しているのは、二階の窓にうつる女の人影、ひとりでに閉まる木戸、屋敷の中では階段の下まで来ると「首を吊った神田ハルが...」となっている。伝統的なお化け屋敷の風情である。のっぺらぼうではない。


 さらに、第16集でサダキヨが街中で仕入れてフクベエに報告している噂話も「幽霊」と言われているだけであり、ケンヂとオッチョが屋敷の二階で見て逃げ出したときも、当人たちの表現によれば「本物の幽霊」を見たである。のっぺらぼうを見たのなら、誰でも知っているお化けなのだから、のっぺらぼうを見たとサダキヨのように叫ぶはずである。

 のっぺらぼうと、それとは別に、首吊り系のお化けでもいるのだろうか? はっきりと言えるのは、のっぺらぼう、すなわち顔がないのが一番怖いとフクベエが判断し、それが首吊り坂の小細工の失敗を招いたという点であり、おそらく、その失敗と「自分がのっぺらぼうに見える」という異常事態が、彼の性格を捻じ曲げて行った諸要因に含まれているのだろう。今の時点では、これくらいの整理しかつかない。順番に読んでいくほかないか。難儀な。



(この稿おわり)





今月、新装開店した東京駅の遠景  (2012年10月1日撮影)




































































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