おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

中性子爆弾 (20世紀少年 第489回)

 前回の話題があまりに暗かったので、今回は気晴らしの雑談です。しばらく前に、映画「12 モンキーズ」と「20世紀少年」を比べてみたのだが、すでに触れたように小松左京の「復活の日」も類似のテーマを扱っている。生物化学兵器として開発されたウィルスが、スパイに盗まれて事故で漏れるというSF小説である。

 以下、あらすじに触れますので、未読のかたはご注意ください。人類も大型の動物も、このウィルスのため、ほとんど死滅してしまうのだが、なぜかウィルスは極寒地と海中においては不活性であるため、たまたま何か国かの南極基地の要員と、米ソの原子力潜水艦内にいた合計約1万人のみが取りあえず助かり、さあ、どうしようという物語である。


 両者に共通点はないかなという視点に立って読むので、細かいことまで見つかるのだ。「復活の日」において、最後にアメリカから届く通信は、ニューメキシコ州にただ一人残された5歳の少年からのハム無線だった。主人公の一人が、冷戦下の核武装合戦を、「子供じみた」所作だったと振り返るシーンも出てくる。

 また、ウィルスの被害に加えて、爆弾も出てくる。「21世紀少年」に出てくる「反陽子爆弾」は、またそのときに詳しく書きたいが、当面は人類の科学技術で作れるような代物ではない。だが、「復活の日」において人類の滅亡に拍車をかけんとする核兵器は「中性子爆弾」である。こちらは実際に開発されており、広辞苑にもちゃんと説明が載っている。


 ミクロの物理学は苦手なのだが、どうやら中性子は、文字どおり電気的に中性なので電磁場にとらわれにくく、したがって貫通力が高いらしい。人体を通過する際に、細胞その他を破壊していくため、殺傷力が高いのだそうだ。このため、私も漠然とそう考えていたのだが、建物などは無事なのに、人間だけ消滅するという印象が広まったようだ。

 今は亡き米原万里さんが週刊文春に載せていた「私の読書日記」のファンでした。彼女の著書に「ロシアは今日も荒れ模様」というエッセイ集があり、講談社から文庫で出ている。この中に、有名な小話なのでご存じの方も多いと思うが、「二人の飲み仲間の会話」が収録されている。


「おまえ、最近世間を騒がせている中性子爆弾というのを知ってるかい? 原子爆弾とどう違うのかね」
「ああ、早い話、原子爆弾ってのはな、ここにたとえば落ちてきたとすると、オレもおまえもウォトカも一蓮托生ってことだな。ところが、中性子爆弾が、ここに落ちたとすると、オレとお前はお陀仏だけど、ウォトカの中身は無傷のまま残るってことだ」
「そうかあ。するってえと、おまえとオレがこうして無事なのに、ここにウォトカがないってことは、どんな爆弾を落とされたのかねえ」

 
 ロシアにも呑兵衛の八っつぁん熊さんがいるらしい。実際には、人体は即座に蒸発するわけではなくて「お陀仏」のご遺体は残るし、ウォトカも爆心地の近くでは、爆弾である以上、爆風が吹き荒れるから無傷では済むまい。

 ちなみに、手元にある「ロシアは今日も荒れ模様」の文庫本は、表紙絵にロシア人女性を型どったと思われる大小4つの丸っこい人形が描かれている。これはマトリョーシカと呼ばれるロシアの民芸品で、入れ子人形の一種。

 マトリョーシカは、第9集でカンナが賭場荒らしをしたとき、「ラビット・ナボコフ」の手の一つとして、ディーラーの発言の中にも出てくる。ところで、マトリョーシカは、箱根町の観光用公式サイトによると、箱根名物が先祖であるらしい。一部を引用します。


 その後「十二たまご」からは「七福神」や「色変わりだるま」などのバリエーションも作られるようになりました。この「七福神」はその後19世紀末頃ロシアに渡り「マトリョーシカ」(子持ち人形)というロシアの代表的な民芸品が生まれました。これは、当時塔之沢にあったロシア聖教会の箱根避暑館にやってきたロシア人修道士が土産にと本国に持ち帰ったものがそのルーツではないかと考えられています。

 ただし、ロシア語が読める知人が確認した範囲では、マトリョーシカが箱根から伝わったとするロシア側のウェブ資料はないらしい。歴史認識にずれがあるようである。さて物語に戻ろう。「のっぺらぼう」の自分を見てしまったフクベエは、その後どうなっただろうか。



(この稿おわり)




田端にて。おすすめ。(2012年9月17日)































































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