おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

仲間と友達 その2 (20世紀少年 第480回)


 1か月ほど前に「仲間と友達」についての雑文を書き、長くなったので途中でやめて先に進みました。
http://d.hatena.ne.jp/TeramotoM/20120814
 今ちょうど、その際に言及した場面に差しかかっているので、続きを書いてみたくなりました。フクベエは仲間外れにされ、カルピスのお盆を抱えて茫然としている。

 取りあえず「連れてってくれよ」とでも言って、追いかけてみれば良かったのにと思うのだが、この性格でそれができれば人生、苦労はない。でも、上手く口にできないならば、行動を起こすしかないのだと思う。ドンキーは「ねー、あのねー」と言い差したまま先が続かなかったが、裸足で自転車を追いかけた。マルオとケンヂがジャリ穴に落ちたのは偶然だが、その場にドンキーが居合わせたのは偶然ではない。


 「仲間」と「本当の友達」を同じように使っている場面は、第1集の冒頭でオッチョが秘密基地と俺達の印の宣言をしているシーンにもあるし、第10集で秘密基地に近寄ろうとしているときのサダキヨの回想にも出てくる。だが、前回の繰り返しになるけれども、仲間は連帯感こそが肝要なのであって、友情が不可欠というものではない。

 トールキンの「指輪物語」第一部のタイトルは「旅の仲間」である。ここでの「仲間」は「fellowship」の和訳。彼らも正義のために旅に出るのだが、連帯意識と共通の目的こそあれ、必ずしも初めから友情で結ばれていたわけではない。ギムリレゴラスは当初ほとんど敵対関係にあったが、戦友となって凱旋した。


 馳夫さんことアラゴルンは、最初のうち4人のホビットにとって不気味なストライダーに過ぎなかった。映画「ザ・ロード・オブ・ザ・リングズ」の終盤、彼が新王に選ばれて戴冠式が行われたとき、ホビット達は王の前で丁寧にお辞儀して礼を尽くす。アラゴルンは首を横に振って、"No, friends. You bow to no one" と言った。否、友よ、頭を垂れたもうことなかれ。

 こんな風に英語の「friend」は大人も使う日常用語だが、日本語の「友達」はそうでもない。昨年の大震災でアメリカが行った救命・復興の支援活動は、特にその規模と迅速さにおいて、台湾のそれと並んで忘れ難い恩義であるが、ただしオペレーション名の「トモダチ作戦」には参った。


 大人になれば親しい者を誰かに紹介するときに、「私の友達です」とは滅多に言うまい。旧友とか釣り仲間とか、この物語に良く出てくる例では幼馴染とか。私の場合はせいぜい「飲み友達」ぐらいだ。ヨッパライは子供みたいなものだから、この程度の扱いで十分である。

 ナショナル・キッドのお面に囲まれ、「おじさん達って、友達?」と訊かれて、ケロヨンは「まあ一応、俺達は”ダチ”だが、あの”ともだち”と一緒にすんな」と少し慌てて言っている。ダチか。古語だな。ともあれ、かくのごとく大人がまともに使う言葉ではないのである。だからこそ、この物語の悪役は、これほどまでに気色悪いのだ。


 コイズミに「この中に”ともだち”っている?」と訊かれた子供たちを代表して、「一応、みんな友達なんじゃない」とコンチは軽くあしらっているが、友達というのは、そういうものである。子供たちが普段、一緒に遊んでいれば友達なのだ。それは自然発生的なものであり、「友達になってくれる?」と頼んでも、所期の反応は得られまい。

 夜中にドンキーが訪ねてきたとき、ケンヂのお母ちゃんは、「この子、お前の友達だろ?」と言っている。関口先生はサダキヨ宛ての年賀状に「友達をたくさんつくって下さい」と書いた。大人が使うときは、子供が相手のときなのだ。重ねて言うが大人同士では照れくさくて使えない。アメリカ軍もこれで良いかどうか、一言、私に訊いてくれれば良かったのに。


 「旅の仲間」や、「仲間に入って悪と戦おう」と誘うときや、株仲間という言葉が示すように、仲間内には共通の利害や目的が存在するときもあるが、友人関係にそれは要らない。今や大人の世界は利害に満ち溢れているので、友達という言葉の出番が少ないのかもしれない。

 2000GTの助手席で、「そんなの友達じゃないと思うんだけど」とコイズミは言った。そのときになって、ようやく”ともだち”の呪縛から逃れ始めたサダキヨだったが、第16集においては、その泥沼に足を踏み込む場面が、これから始まる。




(この項おわり)




夏の終わり、近所にはムクゲがたくさん咲く。(2012年9月11日撮影)














やるせない思いを胸に ともだちは去りました
今日という日の来ることは 避けられぬことだったのでしょう


    「ともだち」 吉田拓郎




















































































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