おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

侵入者が続々 (20世紀少年 第415回)

 第14巻の第7話は、ずっと前の77ページで「エンジニアの彼」が、「カンナさん、ちょっと見てください」と言っている場面の続き。外の端末から何者かが、ヴァーチャル・アトラクション(VA)に侵入してきたというのだ(念のため、勝手に侵入しているのはヨシツネとコイズミの方である)。しかも、すごいスピードで「隊長と小泉(呼び捨て)」に近づきつつあるらしい。一大事。

 カンナは二人がどんな状況にあるか訊く。エンジニアの彼は「わかりません」と真っ正直に答えた後で、脈拍・血圧ともに上昇していると付け加えている。前後の状況からして、このときVA内の二人はすでに校内にいて、128ページに描かれているのだが未だ侵入者には気付いてはいない。理科室に行く行かないで言い争いをしていたため、脈拍も血圧も上がってしまったのだ。


 エンジニアの彼の心配は、ヨシツネ隊長から聞いたところによると、カンナが握っている命綱の象徴である「EXIT」の終了ボタンを押すと、「危険な場合もある」らしいのだ。そんなこと今さら言われても、カンナは困るだけだろう。「強制終了」をするかしないかの判断しかできなかったヨシツネとは立場が違う。後の彼女の果断な処置は、すでにこのとき決意が固まったと言ってもよいだろう。

 それにしても、普通の終了ボタンですら危険が伴うのだろうか。かつてヨシツネを悩ませた「強制終了」は、電源を落とすという強硬措置であり、どんなコンピュータ・システムでも異常をきたす恐れことがあるくらい私でも知っているのだけれど、おそらく、これは「ヴァーチャル・アトラクションのシステムをよく知らない者が扱うと危ないぜ」という条件付きのリスクだろうな。

 システムはカンナもよく知らないから、彼女は極度の緊張状態に陥った。携帯電話はマナー・モードにしてあったので、ユキジからの電話にも気づかない。ユキジの用件も分からず仕舞い。相変らず、ムチャしないで、かな。だとしたら、これまた無理な相談であった。


 128ページは、廊下を歩いて行くドンキーを、ヨシツネとコイズミが見守っている場面である。怖がりのコイズミは「あたし無理だから」という理由で、ドンキーを尾行するのを拒もうとしている。これに対して、ヨシツネは「僕は見なきゃならんのだ」と言う。これから理科室で起きることを。ドンキーが見たものを。ここまでは理解できます。

 だが、それに続く「”ともだち”の真実を...!!」というのは、どういう意味だろうか。何か起きるか知らないのに、なぜそれが”ともだち”の真実と断言できるのか。元旦の「ひみつ集会」で、山根はオッチョたちに、ドンキーは理科室で見ないほうがいいものを見てしまった、そして、そのために”絶交”されたと語った。

 ヨシツネは、それをオッチョから聴いていたのだろうか。それならば、ボウリング場で油なんか売ってないで、さっさと学校を目指して来ればよかったのに。モンちゃんが学校帰りにピンボールで遊ばなかったら、あやうく見逃すところだったのだ。そういえばモンちゃん、夏休みの宿題は終わったのだろうか...?


 ヨシツネが、じゃあ置いていくから静かにしていろというと、コイズミは、またも、こんなところに一人にするなと言わざるを得ない。その口元を覆って、ヨシツネは「誰か来る」と言った。よりによって、万丈目であった。彼は理科室の場所を知っているようで、まっしぐらに廊下を歩いて行く。

 VA内のヨシツネが「万丈目...」とつぶやいたとき、カンナの目の前でうずくまっている現実のヨシツネの本体部分も「万丈目」という声を漏らした。そんなの、ありか? なぜ、これだけが言葉になって出てくるのか、私には説明できません。ともあれ、エンジニアの彼は逆探知に成功、件の外部端末は議員会館内。平仄が合った。やはり侵入者は万丈目だった。


 ところが、カンナとエンジニアの彼は、万丈目一人に驚いている暇など無くなった。なんと、別の侵入者がディスプレイに登場してきたのである。その速さは万丈目の比ではないらしい。「人間とは思えない。完全にVAの構造を知りつくしている動きだ。なんなんだ、こいつは」というのがエンジニアの彼の叫びである。

 そう。なんなんだ、こいつは。VAの構造を知悉していて、しかも、自らその中に入って動く。さらに、一直線に理科室方面に進み行く。少し前に万丈目は「私にそれを見せつけて、どうしようというのか」と恐れ慄いていたが、それを見せつけようとしていた者は、万丈目が想定していたほうの”ともだち”ではなかったのだ。しかし、この時点での万丈目はそれを知らない。


 エンジニアの彼が驚いたことに、カンナはすでにヘッドギアを手にしており、ヨシツネとコイズミと同じステージに行けるかと訊いてきた。彼は「理論上は可能ですが」と答えているが、これは「現実には困難です」と同じ意味で使われる常套句である。彼はユキジに代わって、「いくらなんでもムチャです」と大声を挙げている。

 しかし、カンナは賭けに強いのだ。このとき再び実に都合よく、ヨシツネ本体が「この先が理科室だ...」と情報をくれた。まるで霊媒だな。カンナは注射を打ち、ヘッドギアも装着して準備完了。「あたしを早く理科室へ」と指示する。エンジニアの彼は、「そんな...」と言いながら、冷や汗浮かべて顔面蒼白。スイッチを押すときの気合いも「ええい!!」とは、典型的な成り行き任せだな。幸いカンナは同じステージに入った。だが、ちょいと場所が違っていたのだった。



(この稿おわり)



近所の韓国料理屋さん。漢字で良かった。(2012年6月28日撮影)



千代田区にて。どこかで見たデザイン。これで左手を添えれば申し分なし。(2012年6月29日撮影)





やっぱり夏は南の海と花(2012年7月8日)