おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

防毒マスクの男  (20世紀少年 第384回)

 今回も、どうでもよい話題から入ります。第7巻の最後で、トラックに乗り込んだケンヂとオッチョとマルオの3人は、「米軍払下げのボロボロ」の「対細菌用の防護服」を着込んでいる。ウェット・スーツのような全身装着型である。細菌兵器が、どこからどのように体内に侵入するか分からないのだから、当然の装備であろう。

 しかし、第3巻で大阪に細菌をばら撒いた「ぬかるみ兄弟」は、バイク用ヘルメットのように頭部のみを覆うマスクだけで、首から下はスーツにネクタイである。第15巻の終わりに世界中でウィルスをまき散らした男たちも、「防毒マスクにスーツ姿のセールスマン」である。どうやら、山根が開発した生物兵器は、至近距離でもない限り、顔だけ隠せば大丈夫らしい。


 しかし第13巻の森園は全身フル装備の様相である。何かが割れる音を聞いた鍋の仲間は、心配して森園の部屋をのぞきに行った。井川さんも撮影を続けながら見にいった。隣の部屋では不気味な防毒マスクを付けた森園と思われる者が、砕け散ったガラスの破片のようなものと、こぼれた液体をふき取ろうとしている。

 「い、いや、なんでもない」と彼は言った。少し慌てているようにもみえる。ここで割ってしまったのは、想定外の事故だったのだろうか。全身防毒の恰好をしている以上、彼がウィルスを直後にばら撒こうとしていたのは、まず間違いない。それも多分、至近距離で。では、相手は? アパートの気の良い若者4人が当初から標的だったのか? 


 それとも、別の場所で使う計画だったが、ガラス容器を割ってしまったので、急いで防護服を着たか? それはちょっと考え辛いな。他の4人が死んだのに、本人が生き残るとは思えない。やはり、まずは鍋仲間を殺そうとしたのだろう。容器を割る事故があったせいで、東京の被害は小さくで済んだのかもしれない。

 井川さんは「森園さんから、北海道は室別の新巻鮭のお土産」と言っているから、森園は北海道に行ったと語っていたのだろう。たぶん本当に行ったな。兵器と防護服一式を持っているのだから、実行犯に違いない。室別でウィルスをばら撒き、そして、なぜか知らんが新巻鮭を、少なくとも2本は買って戻ってきた。


 コイズミは一瞬、この防毒マスク姿を見て不審に思った。「ん...?」と呟いているのだが、トモコさんからの映像が最後の「風邪ひいたみたい」に切り替わったため(前後関係から、感染した結果、風邪のような症状が出たという仮説が成り立つ)、コイズミは再びトモコさんの涙に付き合うことになった。

 井川さんを偲ぶ二人の会話は、家に一人で居るトモコさんのところに、「宅配便か何か」が来て途切れた。モニターに新巻鮭が写っているとトモコさんが言う。残されたコイズミはため息をつきながら、流れてきたテレビのニュースで室別の厳戒態勢の報道を耳にして、「北海道も大変みたいねえ」と感想を漏らした。コイズミは逆境に強い。彼女の頭脳が回転し始める。



(この稿おわり)




ご近所のアオイ。好きな花の一つ。(2012年6月7日撮影)