おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

山根君と落合君の会話 【前半】  (20世紀少年 第338回)

 第12巻の第4話「秘密の連絡」は、またしてもオッチョがその超人的な記憶力を発揮する一幕である。大福屋の戸倉から2003年当時の山根の住所を聴き出したショーグンと角田氏はその住所地を訪ねたが、人が住んでいる気配がない。家屋に蔦が絡んでいる。遠い昔、私の隣家が夜逃げした。その家はあっと言う間に、昔の甲子園球場のような蔦に覆われた。

 ゴソゴソしているうちに、隣家のおばちゃんに誰何されてしまった。それはそうだな。元日早々、空き家の前でウロウロしている男二人組とくれば、とても怪しい。ここで、「社員証を見せて差し上げたらどうだ、角田君」と大真面目に落ち着き払っているオッチョが可笑しい。


 いきなり話を振られた角田氏は、日頃それほど弁論が達者なたちとは見えないが、事態が事態だけに必死に切り抜けて見事、山根家の転居先の住所を聴き出すのに成功している。ショーグンも背中を軽く叩き、その労を多とした。

 見るからに善人そうな角田氏がいて良かったね。オッチョ一人では、隣人の警戒は解けなかったであろう。モアイ像が突然しゃべり出したような衝撃を与えたのみで終わったであろう。しかしその直後、ショーグンともあろうお方の手が震えているのを漫画家は見た。

 隣家に教わった引っ越し先の住所は、かつて「俺が小学校時代、住んでいた町だ」ったのだ。角田氏もショーグンと山根が同年代であることに気づく。「まさか...山根君?」とショーグンは言った。


 さて、隣家のおばちゃんによると、山根さん一家は「お父さんが亡くなられて、実家に戻られた」のが転居の理由であり、越して4年くらいになるとのことだった。2011年ごろである。山根が研究所から逃げ出したのは2003年。

 そのまま逃げ続けたはずだから、この間の8年間、まさか自宅に居たとは思えないのだが。まあ、これはどうでも良いですか。また、オッチョの表現が「子供時代」などではなくて、「小学校時代」に限定されているので、この言葉のまま受け取ると、彼は中学校以降は別の町に住んでいたということになるのか。

 オッチョは受験勉強して、どうやら私学の中学校に進学したらしいが、落合家はその前後に引越したのかろうか。第四中学校に初めてロックが鳴り響いた昼休み、オッチョはその場にいなかったのかもしれない。


 彼の記憶力はゴオオオと遠い過去を探った。区立第三小学校の廊下を歩いていた落合君は、後ろから来た山根君に声を掛けられた。山根の顔は、読者には卒業写真でお馴染みになっている。土曜の午後に二人が居残っているのは、お互い学級委員だかららしい。これから委員会なのだ。

 私も一度だけ、小学校の学級委員をやり、確かに居残りは辛かった。だが、土曜の午後ではなかったと思う。給食が困るもんね。両名は弁当持参か。いくら東京でも、まさか小学校の学級委員会に仕出しの弁当は出るまい。そういえば私の小学校では、小学校1年生のときまで、給食に牛乳ではなく脱脂粉乳が出た。そんなに不味くなかった。水以外ならご馳走だったからなあ。


 山根君が出した最初の話題は、「今月の学研のかがく」の付録が物足りなかったというものであった。「あの程度の実験じゃねえ」という感想付き。実験マニアだもんな。山根は6年生のほうが良かったといっているので、実家がお金持ちで6年生のも買ってもらっているのか、兄貴でも居るのか、さもなくば悪い友達の影響で嘘つきになっているのか。

 山根が、落合君くらいできる子なら四年生でやっていることなんて物足りないんじゃない?と言っているので、この二人が4年生であると想像がつく。このあとの秘密基地関係の会話内容も、それで矛盾しない。原っぱの基地でのもっぱらの話題は、4年生のときが「よげんの書」であり、5年生のときは大阪万博だった。


 何にせよ我ら中高年にとって、子供のころ慣れ親しんだものが、せっかく何十年も長続きしたのに終わりになるというのは本当に寂しいものだ。雑誌でいえば、ここに出てくる学研の「科学と学習」であり、あるいは、小学館学年誌(小学一年生と二年生は残っているようだが)である。

 大雑把にいえば、「科学」は理系で、「学習」は文系だったから、科学好きだった私や山根は「科学」の愛読者だったのだ。当方の場合、一番楽しみだったのは付録よりも連載漫画で、最初のうちは「はじめ人間ゴン」であり、途中から「玄海とイドムンコスキー」に代わった。どこが似ていたのか、私の大学時代のあだ名は、はじめ人間ゴンだったので愛着がある。

 
 「はじめ人間」は、確か中学校に進学した後に、テレビ・アニメの「ギャートルズ」になった。マンモスのステーキが、とても美味しそうだったな。フォークソング調のエンディング・テーマも忘れ難い。クラスでも人気だった。かまやつひろしが歌っていました。

 第22巻で、ジジババの店からダッシュで逃げ去るケンヂを目撃したとき、自転車走行中のマルオが歌っていた「とぼけた顔してババンバーン」という歌詞は、ムッシュかまやつザ・スパイダース時代に歌った「バン・バン・バン」の一節である。GSではスパイダースが一番好きだった。賑やかな連中でした。

 さて、オッチョにとっては、科学の付録などどうでも良かったようで、軽く受け流している。ところが、それに続いて山根が持ち出した二つ目の話題は、看過できないものであった。「よげんの書」批判だったのである。長くなってきたので次号に続きます。



(この稿おわり)



八重桜は遅れて満開を迎えます。(2012年4月20日撮影)