おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

それぞれの大みそか   (20世紀少年 第330回)

 第12巻に入ります。この巻は、2014年12月31日の夜から2015年元日の夜までを描いている。血の大みそかから14年。あのときは、みんなしてひどい目に遭ったのだが、この年の大みそかはヨシツネとユキジが一緒に居る以外は、第1話のタイトルどおり「それぞれの大みそか」を過ごしている。

 2000年の紅白歌合戦は、おそらく巨大ロボットの出現で中断したか最初から流れてしまっただろう。しかし、番組はその後、復活したようで、2014年も第64回の紅白歌合戦が、一見、平和裏に開催されている。最初に描かれているのは、例のアイロンがねじ曲がったような新宿の慰霊碑前に集まった弔問客たちの姿の中継。


 この場所は大爆発の跡地で、カンナと蝶野刑事、神様とコイズミが語らった場所でもあるが、公共放送によると”ともだち広場”という名前らしい。ドリーム・ランドにもあるが”ともだち”はサーチ・ライトが好きなようだな。現場中継のアナウンサーは、「あのような惨劇が二度と繰り返されぬよう、祈りの輪が広がります」と語る。祈りは聞き届けられなかった。祈る相手を間違ったからである。

 マイクが会場に戻って、白組の大トリと言えば国民的歌手、春波夫さんのご登場。唄うは2015年の万博のテーマソング、「ハロハロエキスポ音頭」であった。背景に流れるのは、1970年の大阪万国博覧会の画像。本物の太陽の塔。当時子供だった私はエキスポの意味を知らなかったし、知ろうともしなかった。本当に関心がなかったのだなあ。万博は英語で「Universal Exposition」。


 「ハロハロエキスポ音頭」は、かつてコイズミがドリーム・ランドの備え付けテレビで、カンナがドーナツ屋のテレビで、それぞれうんざりしながら聴いたのだが、それらとは違うアレンジの録音があるらしい。第11巻でカンナをナンパした男たちが聴いているのは、「ユーロ・オンド・ヴァージョン」である。

 ちなみに、彼らはその前に「ネオドドンパ系」が流行っていると言っている。ドドンパというのは60年代に流行した歌謡曲のジャンルです。2014年にリバイバルしたのか。紅白の春さんの前奏も「ドドンパドン」で始まっている。ユーロ・ビートは私が大学生のころ流行ったのだが、これも再びブームになったのか。


 歌詞の「ハロハロ〜、ぇエヴりバディ〜」につきましては、私はリアル・タイムで経験したわけではなくて、録音で何回か聴いたことがあるだけなのだが、NHKが戦後しばらくラジオで英会話の番組のオープニング・ナンバーに使った曲目不明の歌から取ったものだと思う。「ハロハロ、エブリボディ、ハウ・ドゥー・ユー・ドゥー? アンド・ハウ・アー・ユー?」。

 これは替え歌であって、原曲は「しょ、しょ、しょうじょう寺」で始まるタヌキ噺です。スタジオ・ジブリが「平成狸合戦ぽんぽこ」において、題名にわざわざ「平成」を冠したのは、タヌキ対和尚さんの太鼓合戦を唄った狸囃の童謡が大正時代からあり(紅白より古い)、また、「踊るポンポコリン」という名曲もあったという日本音楽史を踏まえてのものである。


 なお、私が小学生だった或る年、正月早々に「今年の紅白はどっちが勝った?」という質問をするのが流行った。みな記憶に新しいから、つい答えてしまう。実に見事に引っかかるのだが、間もなく全員に免疫ができて、誰もだまされなくなった。翌年、「今年の紅白のトリは誰だったか?」というような苦しい別バージョンも出たが、子供はそれほど間抜けではなかった。


 羽田の秘密基地では、ヨシツネやユキジたちが紅白をテレビで観ている。コイズミもとうとう観念ようで、ここで年越しすることになった。市原弁護士は通常の業務に戻ったか。カンナは年内には戻らなかった。隊員たちの数は、先日、カツ弁を注文したときと同じく男ばかりの8名。

 ヨシツネ隊長は、テレビに向かって「何がハロハロだ。全くお気楽なもんだ」と毒づいている。気持ちはよく分かるが、後日、春さん本人と会うときは、これほど勇ましくはなかった。「さて、僕たちはしめやかにやろうや」とヨシツネは言う。コイズミを除き、ここにいる人たちは14年前のこの日、大切な者を失い、それまで続いていたささやかな生活も全て失っているのだ。ヨシツネのスピーチが始まる。彼にしては上出来だった。



(この稿おわり)




どうも私は黄色い花が好きらしい。(2012年4月13日撮影)