おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

いざ教会へ   (20世紀少年 第266回)

 
 第9巻の第7話「しんよげんの書」は、2002年にモンちゃんが失踪したことを読者に告げた後、2014年に戻ってユキジと市原弁護士が公園で待ち合わせる場面に続く。先に来て待っていた弁護士は、一時間並んで買ったタコ焼きに加えて、たくさんの紙袋を抱えており、ユキジを驚かせている。

 市原さんによれば、「また事務所に盗聴器を仕掛けられてた」ため、オフィスを移転したらしい。”ともだち”一派の陰険さは、この盗聴器という卑劣な手段を頻繁に使うところにも表れている。盗み聞きというのは、われわれが最も嫌う反道徳的な行為であろう。ウォーターゲート事件では大統領のクビが飛んだのだ。


 市原弁護士がかつて勤めていた中津川法律事務所は、第2巻によると住所が中央区一ツ橋になっており、すなわち血の大みそかに巨大ロボットが出現した小学館のご近所なのだが、暮れ正月でお休みだったのか、彼女は無事、21世紀も生き残っている。しかも、相変わらずたくましく、新事務所は新宿中央公園内、建屋はホームレスが作ってくれた仮設のものらしい。

 新宿中央公園は実在する。私はここで何回か花見をしました。しかも平日の勤務日の昼間に。新宿の中央にあるとは言い難いが、まあ世話になったから良いや。それはともかく、二人の会合の主たる目的は、どうやら毎月、弁護士が調査してユキジに渡している”ともだち”と友民党の動向に関するレポートの受け渡しである。


 弁護士は、”ともだち”の被害者家族の訴訟で最高裁まで争いつつ、他方で、ユキジの「来たるべき時に備えて」進めている調査活動に協力しているらしい。第10巻でユキジがカンナに、ラーメンを食べながら「あたしだって戦っている」と言っているのは、この辺りのことを指すのだろう。

 二人の会話の内容から、ユキジはできるだけカンナを巻き込まないようにしていることや、弁護士も「しんよげん書」のことを知っていること、ユキジが相変わらず「お嫁にいけない」状態であることなどが分かる。加えて、弁護士からユキジにもたらされた驚くべき情報は、「新宿の教会で集会が開かれ」るらしいというホームレスたちの噂話であった。


 同じ話をショーグンと角田氏も聞いた。この二人も、ユキジと市原弁護士も、そしてショットガンを持ち出した鼻ホクロ巡査も、カンナに会うべく新宿歌舞伎町教会に向かう。教会では、「よげんの書」を読んだ仁谷神父がカンナを信用したようで、集合場所として教会施設を開放しており、中泰のマフィアやホームレスが詰めかけて、さっそく喧嘩騒ぎを起こしている。

 カンナは、ここでまたケンヂの話を思い出している。心臓が飛び出しそうになろうと、吐きそうになろうと、「それがなきゃライブなんてやんないさ」ということらしい。集会は、檀上に立ったカンナの「静かに!」という学校の先生みたいな説教から始まった。

 ところで、この145ページ目下段の「静かに」の絵とほぼ同じアングルで描かれた絵が、第11巻の91ページ目に出てくる。サダキヨは、この日この場所に居たのだ。サダキヨの「僕はいい者? 悪者?」という、彼の人生の来し方行く末を揺るがしかねない煩悶が始まっていたのだ。さて、集会場は、とりあえず静かになった。カンナが一世一代の演説を行うときがきた。


(この稿おわり)



浅草寺の雷門の大提灯の裏は、こうなっています。辰年記念。
(2012年1月22日撮影)