おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

うさぎ ナボコフ テッド・ウィリアムズ   (20世紀少年 第263回)

 今回は、まるで落語の三題噺のようなタイトル、例によって物語とは関わりのないことでございます。以前、「ラビット・ナボコフ」は実在するギャンブルかどうか調べようと思い、ネットで検索したところ、「20世紀少年」がらみの検索結果ばかり出てきたので断念。

 架空のゲームだとしたら、ずいぶん凝ったものを考案したものだ。ちなみに、ピロシキというのは、まだ食べたことがないのだが美味しいのだろうか。


 念のため、英語で「Nabokov」(ロシア語ができないので)とウサギの「rabbit」でもサーチしてみたところ、驚いたことに英語版の「20世紀少年」関連情報が続出した。この冗長散漫ブログを上回る物好きや閑人が、世間には満ち満ちているのだろうか。

 もっとも、そうでもないサイトも出てきた。検索に引っかかったキーワードは、ロシア人の小説家で「ロリータ」の著者、ウラジミル・ナボコフと、「走れウサギ」など、うさぎシリーズで名高いアメリカ人の作家、ジョン・アップダイクの間に親交があったという、ただそれだけのことである。あの世のナボコフ氏も、ロリコンという日本語があろうとは夢にも思うまいな。


 幼稚園児のころからのプロ野球ファンだが、子供のときの楽しみの一つは、秋にアメリカの大リーグの優勝チームなどが日本に試合をしに来る催しであった(大リーグを英語っぽく言いたいなら、メジャーではなくて、メイジャーのほうがよい。メジャーは物差しです)。今では衛星放送などで簡単にMLBの試合を観戦できるが、当時は貴重品だったのだ。

 チーム名は忘れたが、ある年に来日した球団の監督さんは元投手だった。報知新聞に載ったこの監督へのインタビュー記事の最後に、「現役時代に対戦した最強の打者は?」というのがあって、返事は「テッド・ウィリアムズ。あの男に睨まれたら最後、どんなピッチャーでもボロボロになるまで打たれた」とのことであった。


 これが私にとって、テッド・ウィリアムズの名を覚えたきっかけであり、彼に関する記事などがあると必ず読むようになった。先年、残念ながら亡くなったが、テッド・ウィリアムズ三冠王2回、4割打者、全盛期に2回も兵役に取られなければ、ベーブ・ルースほかが持っていた打撃部門のあらゆる記録を塗り替えたに違いないと言われた男である。

 無数のエピソードを残しているが、引退時の放言が何より面白い。彼はまだ余裕でレギュラーを務め得る力を残しながら、引退を表明した。その理由は、「田舎に戻って釣り具屋をやりたい」というものだった。最終戦でホームランを打ったが、ファンに挨拶もせず、グラウンドを後にした。


 取り巻いた取材陣から、引退の感想を求められたテッドさんは、一言、「これで君らの相手をせずに済む」と言ったらしい。ファンもマスコミもずいぶん怒ったそうだが、以下は玉木正之著「プロ野球大辞典」によると、ジョン・アップダイクは「神々は返事など書かない」と主張して、擁護したらしい。原文は「Gods do not answer letters」。

 ちなみに、いまスポーツ・マスコミが乱発する「記録に残るよりも、記憶に残る選手」という表現は、私の知る限り、この「プロ野球大辞典」が初出である。玉木さんは大の長嶋ファンで、勢い余って王が嫌いであり(少なくとも当時は)、ミスターへの賛辞としてこの言葉を使った。

 数年前、ロサンゼルスからメキシコ・シティに行く飛行機の中で、暇つぶしに機内販売のカタログを読んでいたら、商品の中にテッド・ウィリアムズの写真があった。ベーブ・ルースでも、ジョー・ディマジオでも、ノーラン・ライアンでもなく、テッド・ウィリアムズであった。


 さて、カンナは「ラビット・ナボコフ」の賭場でも、向かうところ敵なし。同席の3人のギャンブラーを破産させ、さらに、負けた方が破滅というところまで、ディーラーを追いこんだ。この、ちょっとサダキヨに似たディーラーは気の小さな男だったようで、ピストルを抜いてしまい、渡世人に「勝負はついた」と宣告されてしまう。

 ちなみに、通常、カジノはこんなになるまで状況を放置はしないはずで、私もラスベガスで負けの込んだディーラーが、管理職らしき人に交代させられているシーンを何回か見ている。ついでに自慢すれば、私も1回だけ、ルーレットであっと言う間に千ドル以上、儲けたことがあり、ディーラーが降板させられるのを見た。

 こうやって書いていると、私は天性のギャンブラーであるかのようだが、実際はカジノ以外の種目で負けがこんでいるので、はやり博打は儲からないのだ。それでもあえてカジノで勝つ確率を高める方法はと問われれば、少額を賭け続けたほうが良いとしか言えない。


 カンナは見物に集まったギャンブラーたちに、お金はあげるから、その代りに、力を貸してくれと頼む。まるで関ヶ原合戦前夜の黒田如水のような太っ腹である。金の亡者たちがコインに殺到する中、カンナは明日の朝5時に、「旧区役所広場」まで来てくれと叫んでいる。

 新宿区役所は血の大みそかの爆心地から、それなりの距離があるのだが、それさえ吹っ飛ぶほどの大爆発だったのだろうか。あるいは、近くを巨大ロボットが通過しているので、細菌対策で閉鎖されてしまったか。いずれにせよ今では広場であるらしく、カンナは、そこに人を集めようとしたのだ。歌舞伎町教会も近い。さて、人が集まるかどうか。


(この稿おわり)


近所の寿司屋の渋い店頭(2012年1月22日撮影)