おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

カンナ、戦闘開始   (20世紀少年 第261回)

 この「カンナ、戦闘開始」というタイトルは、単行本第9巻の巻末の宣伝文句から拝借しました。これまで教室で暴れたり、鼻ホクロ巡査から逃げたりしていたカンナが、「本気で勝負すると、何かが決壊するんだ」というケンヂおじちゃんの言葉を心の支えにして戦闘モードに入る。

 この前の第2話まで、小泉響子とバーチャル・アトラクション内の20世紀少年たちが繰り広げた騒動は、さながら不思議の国のコイズミといった感じの賑やかさだったが、第3話以降に登場するのは、マフィア、ギャンブラー、殺人鬼といった物騒な顔ぶれであり、話は重く殺伐としてくる。


 第3話「本気勝負」は、カンナにまつわる三つの昔の話題から始まる。一つ目は、「カンナは俺が育てる」というケンヂおなじみの啖呵。ケンヂはこれと同様のセリフを、第1巻で葬儀屋のオキクばあ相手に、また、第3巻でコンビニの営業担当相手に言い放っているのだが、第9巻と少し言葉遣いが違う。ほかにこれと同じ宣言をする相手というと、お母ちゃんだろうか。

 次に、オキクばあの逸話のすぐ後にも出てくる、タマゴボーロのありかを「十発十中」で(確率は2分の1の十乗だから、1024分の1)、見事、当てている乳児のカンナ。のちに彼女が、「なんとなくできたの...小さい頃から」と語る場面の予告編だな。続いて一番街商店街であろう、ギターを抱えたケンヂが3歳児のカンナにウッドストックの話をして聞かせるシーン。

 
 カンナは、そろって地下潜伏中の蝶野刑事とマライアさんとともに、雑居ビル街に登場する。カジノのコインを拾ったらしい。マライアさんによれば、中国マフィアとタイマフィアが手を握って経営している呉越同舟型のカジノで、警察も下手に手を出せないという治外法権の賭場なのだ。しかも、日本人ではコインの両替すら簡単にはできないらしい。

 カンナの計画は、拾得物のコイン1枚を創業資本として、小さい頃からなんとなくできた超能力と、本気勝負で何かが決壊するという叔父上の精神論を拠り所として、文字通り一攫千金の戦費調達をカジノでやらかそうという気宇壮大なものであった。


 正確には、ケンヂは「しょせん世の中、金だが、それがすべてじゃない」と前置きした上で決壊論を展開しているのだが、カンナの宣戦布告は「しょせん世の中お金よ」であった。ともあれ、コインがないとは入れないカジノ「JUMBO」に3人は入場を許された。最初に目つきの悪い二人の男がカード・ゲームを指しでやっているが、これはブラック・ジャックであろうか? 

 私は二十代後半に、一度だけラスベガスでブラック・ジャックをやったことがある。結果は微妙な判定だった。その日、カジノ内を見物しながら歩いていたら、三十代と思しき白人女性のディーラーと目が合ったのだが、たまたま客がいなくて暇を持て余していたのだろう、そこに座ってブラック・ジャックの相手をせよという。


 ルールを知らないと伝えたのだが、教えてやるから、まあ付き合えと熱心であり、表示されている賭け金の単位も小さなテーブルだったので、挑戦してみることにした。彼女は本当に丁寧にルールや判断のしどころなどを教えてくれながら、小一時間も私の相手をしてくれたものだ。ただし、後から気づいたのだが、単なる暇つぶしではなかったと思う。

 ディーラーと対決するタイプのギャンブルは、一対一では何となく客も気後れするようで、複数のテーブルがあるときに空席と満席という色分けがついてしまうことが少なくない。私が年上美人に危ない遊びの手ほどきをうけているうちに、だんだんと他の客も加わってきて、彼女は素人の日本人の先生をしていられないほど忙しくなってきた。


 そこで私は席を立ったのだが、手元には数百ドル分のコインが残った。もちろん実力ではないし、ビギナーズ・ラックですらなく、彼女が勝たせてくれたに違い。それも単なる初体験記念ではなくて、正当なサクラ代を支払ってくれたのだろう。残念なことに、そのとき私はまだ、勝ったときにはディーラーにコインでチップをはずむべしというカジノのマナーを知らなかった。ここに改めてお礼とお詫びを申し上げます。

 記憶にある限り、カリフォルニア駐在中、ギャンブルが合法の隣州ネバダのラスベガスに6回、リノに1回行っており、損得は勝ちが4回、引き分けが2回、負けが1回と戦績は悪くない。もっとも掛け金は小さいので、通算で勝ちは3000ドルくらいで、交通費や宿泊費、飲食や娯楽で使った金を差し引いたら幾らも残るまい。

 負けた1回は大敗であった。ほかのときは自分一人か、男の同僚と一緒に出掛けたのだが、このときだけは日本から遊びに来た母と妹を連れて行った。昔から鉄火場に女は禁物だということぐらい知っていたのだが、先人の知恵を甘く見たので罰が当たったのだろう。しかし、カンナは女ひとりで勝負に出る。まず選んだのは、スロット・マシンであった。


(この稿おわり)


入谷名物の朝顔市は、今年こそ無事、開催されるか?
(2012年1月22日撮影)