おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

強制終了   (20世紀少年 第251回)

 第8巻の197ページ目、小学校5年生のときの「首吊り坂の屋敷」での事件を思い出したヨシツネは、突如、秘密基地から走り出して車を出させ、ともだちランドに向かう。焦りつつ、「”ともだち”の顔を見たら殺される」と、第8巻の最後で叫んでおります。

 バーチャル・アトラクション(VA)の中で、”ともだち”の素顔を見たら殺されるというのを事前に確信していれば、コイズミや隊員たちにも当然、伝えていたと思うのだが、彼らの言動からして、それはなさそうだ。ヨシツネはいきなり思い出した自らの記憶をもとに、そう判断したのだろうか。


 どんな記憶がそのような判断をさせたのかは次回以降に考えるとして、まずヨシツネと隊員2人の動向を追う。車中でヨシツネは、首吊り坂での出来事を隊員たちに話してきかせ、「VAを強制終了する」と宣言して隊員たちを驚かしている。コイズミのVA内での行動を止める唯一の手段なのだろうか。

 ともだちランドのVAのオペレーターならば、コイズミら研修生を現実の世界に連れ戻す機械操作の方法を当然、知っているだろう。ヨシツネ隊も第14巻ではヨシツネとコイズミをVA内に送り込んでいる以上、そのときには手続きを習得していたはずだが、この第8巻の時点では知らないのだろうか?


 仮に知っていたとして、ヨシツネの採り得る選択肢は、(1)強制終了。コイズミに与えるダメージは不詳。(2)ともだちランド正規の方法でゲーム・オーバー。しかしこれは操作しているうちに、自分たちが見つかって捕まり、ヨシツネの事業が壊滅する恐れが大きい。コイズミもどうなるかわからない。(3)このまま放置し、コイズミの運は天に任せる。

 昔、いしだあゆみが唄った歌「あなたばらどうする」の歌詞で、「あなた」に投げかけられた質問の三択は、「泣くの? 歩くの? 死んじゃうの?」であった。この、「歩くの?」の意味が未だに私にはわからない。どんな難問も歩いただけで解決するなら、私はいくらでも歩くぞ。


 昨年、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなったという訃報が海の向こうから届いた。IT音痴の私にとっては(このブログを始めた前後も大変な苦労をしたのだ)、彼は一人の成功した経営者に過ぎないが、業界やファンにとっては神様のようなお方らしい。

 さて、ジョブズ氏個人には何の恨みもないが、アップルに対してはちょっと申し述べたいことがある。ただし、以下はいずれも20年近くも前のことである。


 (1)マッキントッシュのPCが普及したとき感じたこと。りんごのマークはどうみても、ビートルズのアップル・レーベルの物真似であった(確か、訴訟に発展したのではなかったか)。

 (2)当時の私の勤務先にマックが大量導入され、それまで愛用していた一太郎が取り上げられてしまい、後任のマックライトⅡに散々てこずったのが私のIT嫌いの一因になった。


 そして、(3)とにかく頻繁にフリーズした。私も同僚も、あまり良くない手段だと言い合いつつ、仕事なので待っていられず容赦なく電源を引っこ抜いたものである。しかし先日、詳しい人に聞いたところでは、強制終了はハード・ウェアよりも、むしろソフト・ウェアに甚大なダメージを与えるのだという。爾来、私は大蛇の忍耐をもって、凍りついた画面と対峙しつつ、PCとの我慢比べを余儀なくされている。


 ヨシツネは強制終了を選んだ。機械はどうなっても良かろう。問題はコイズミに与える影響である。隊員の一人はハッカーの素養があるようで、見事ともだちランドのシステムの中枢にアクセスした。強制終了の表示が出た。ドクロの印がおどろおどろしい。

 ディスプレイには、「強制終了すると、プレーヤーの脳内メモリーに支障をきたす場合があります。よろしいですか?」と出て、「はい」か「いいえ」を選ぶ。よろしいわけがないだろう。さ、どうする、隊長。


(この稿おわり)


広島の銘酒。学生時代は酒屋のバイトで、この酒を売ったり配達したりしていました。
(2012年1月15日撮影)


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