おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

お面 その3   (20世紀少年 第245回)

 子供時代のお面問題は、①実際の過去および②回想について書き終えたので、最後に③のバーチャル・アトラクション(VA)に挑む。負ける見込み。

 負けることが分かっていても挑戦することを、風車に立ち向かうドン・キホーテに例えることがあるが(ドンキ・ホーテではない)、騎士は負けると分かっていたのかどうか、私は知らない。名前が似ているドンキーは、箱根を越えるつもりだったろう。傍目に滑稽に映るかどうかは、挑戦者の心意気の高さに何の関係もないのだ。


 VAに出てくるお面の少年は、どれが①のとおりなのか、どれが”ともだち”の②回想における思い込みなのか、どれが③だけの「嘘」なのか、なかなか区別が付かないことも多い。このうち、登場回数の多いナショナルキッドについては、これから個々に見て行くことにして、忍者ハットリくんのお面はどうか。

 VAのシーンは、大別すると第8巻から第9巻にかけてコイズミが入るボーナス・トラック、第14巻でのヨシツネとコイズミ、追加でカンナが侵入する場面、そして「21世紀少年」のケンヂによる2回の「決着」である。この3つのうち、後ろの二つには、ナショナルキッドしか出てきていはずだ。


 私の記憶が間違いなければ(最近は老化のせいかケンヂ並みだが)、忍者ハットリくんが出てくるのは、最初のコイズミの冒険だけである。その最初と最後に登場する。先に最後の場面から確認すると、第9巻の24ページ目以降に出てくる。服装はおそらく前回で触れた、ケンヂの回想の中に出てくる少年と同じで、ただし、ベルトの端っこが外れていない。

 この少年は、喋っている内容と、お面の下の顔からして、疑いようもなくフィクションなのだが、では誰の少年時代なのかというと、ハットリだからフクベエとするのが、これまでの私の考え方に沿う。お面の下の顔がフクベエではないのは、本当の顔をよほど知られたくないと考えるのが自然か。だが、そもそもなぜボーナス・トラックにおいて、このような構成にしたのかについては、追ってまた考えたい。


 最後に、このブログの3回前に戻り、VAに入ったばかりのコイズミを「遊ぼ。」と誘った、忍者ハットリ君は誰の化身なのだろう。服装からすると、このVA少年はランニング・シャツを着ている。全編を通じて①でも②でも③でも、ランニング・シャツを着ている登場人物は、ケンヂとマルオ、そしてドンキーだけである。フクベエも、二人のナショナル・キッドも山根も、夏服はきちんとしていて開襟の半そで姿ばかりである。

 また、明らかに体格上、マルオではない。では、ドンキーはどうか。フクベエはドンキーに好意を抱いていない。1971年の嘘を知っているし、最後にはとうとう”絶交”した。そんな相手を、ボーナス・トラックの水先案内人に選ぶとは思えない。鼻水タオルも持っていないし。


 すると服装に限り、消去法的にはケンヂであるが、はて、これはマルオでもドンキーでも同様だが、お面をつけさせる必要はないし、実際、3人とも素顔で後にVAに出てくるし、そもそも、”ともだち”に取り込むべく「遊ぼ。」と言う少年は、”ともだち”側でなくては変だろうな。ランニング・シャツ問題は、考えすぎか...。

 結局、最後に自らハットリ君のお面を外した少年の顔が現実とかけ離れていたのと同様、冒頭の少年のお面と服装と言動がバラバラで、誰か一人の候補者に統一し得ないのは、両者が①や②の少年とは明確に異なり、「嘘」の存在として③に出てきているのだ。


 ではなぜ、VAはこの嘘を必要としたか、あるいは、必要でなくとも、面白がって置いたのか、それを次から考えよう。そもそも、VAは高須の説明によると、成績優秀者だけが参加できる栄えある貴重な体験というご褒美のような説明振りだが、まさか真に受ける訳にはいかない。

 過去には床を血でおおう程の事故まで起きているのだ。ヨシツネが指摘しているように、”ともだち”に従順で、何も考えず何でもいうことをきく者を選んで鍛える、ヒトラー・ユーゲントみたいな調教の場であろう。どうやら、そのためにはVAの中で、コイズミが”ともだち”に会ってもらう必要がありそうだ。


(この稿おわり)

 

浅草にて。日本のお面文化の歴史は古い。
残念ながらハットリくんナショナルキッドは売っていなかった。
(2012年1月22日撮影)