おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

怪獣映画     (20世紀少年 号外)

 おまけです。およそ世のため人のためになるとは思えないこのブログ、常にも増して今回は無残だが、だからこそ力が入ろうというものではないか。こうなったのも第10巻の43ページ目で、トモコさんが英語の先生を「エロガッパ」と呼んだからだ。私はエロガッパの語源を知らない。「エロ+河童」なのかもしれないが、ガッパは怪獣である。

 怪獣映画は、子供のころの私にとって何より楽しいお出かけ目的であった。あいにく私の映画館デビューは柄にもなく「サウンド・オブ・ミュージック」だったが、これはお袋の趣味だったので仕方がない。ちなみに当時のロード・ショーは2本立てが一般的で、このときの片割れは若大将シリーズ。良い時代だったなあ。


 ガッパの珍しさは、子連れの夫婦怪獣だったことだ。日本からの探検隊だか調査団だかが、両親の留守をいいことに子ガッパを連れ去ってしまい、メスガッパが激怒する場面から始まる。私は即座に子供心にもメスガッパに感情移入したのを覚えている。誘拐なんて、そんなことをしてはいけない。ただし、この映画で覚えているのは、そのシーンだけ...。

 第2巻の第10話に、「ゴジラの息子」を一緒に観た帰りのキリコとケンヂが、喫茶さんふらんしすこで、映画の感想を語り合っているシーンがある。昔の地方の映画館はあまりにもローカルなコマーシャルが入っていたものだ。例えば、「落ち着いた雰囲気の純喫茶磯辺。当ビル2階」という感じのやつ。そういえば磯辺のマスターは、ケロヨンであった。

 
 話を元に戻すと、ケンヂはゴジラに息子がいることを知って、ゴジラがメスだったとガッカリしており、姉は相手がいないのはおかしいよねえと話を合わせている。すでに小学生にして、このときのキリコは「ボウフラの研究」を読んでいるのだが、さすがにまだ単為生殖など生命の不思議を知り尽くしてはいなかったらしい。

 ゴジラのシリーズは私が生まれる前に始まっているため、最初に観たのは数作目のモスラとエビラが出てくる映画で、記憶に間違いがなければ、ザ・ピーナッツモスラのうたを唄っていました。モスラもなかなか手ごわく美しいライバルだが、やはり、ゴジラにとって不倶戴天の敵といえばキングギドラを措いて他におるまい。


 私は初めてキングギドラを観たときの衝撃を今でも覚えている。この怪獣は、暗雲立ち込める地平線か水平線の彼方から、三つの首に載せた龍の頭から炎を吐きながら悠然と飛来してきた。キングギドラこそ、世界怪獣史上の最高傑作である。ただ単に、ゴジラと相性が悪かった、同時代で運が悪かった、ただそれだけのことである。

 ゴジラの息子に対して遠藤姉弟が歯切れの悪さを感じたのと同様、私も息子やらメカゴジラが出てくるようになって、関係者には悪いが、ゴジラも終わりだなと小学生のくせに思った。今でもそう思っている。


 昨今のハリウッド映画は(日本の娯楽小説なども同類だが)、衝撃のラスト・シーンが売りのものばかりで、それはそれで別に否定しないが、一回観たら終わりではないか。芸術作品だろうと娯楽作品だろうと、映画には余韻というものがなくてはいかんというのが、私の固く信ずるところである。

 その点、「サンダ対ガイラ」のエンディングは、小学生のチビでさえ、「こういう終わり方もあるのか」と驚倒するほどの見事な終幕だった。今でも鮮やかに覚えています。もう一つ、ガメラ対ギャオスも捨てがたいフィナーレである。


 ガメラ大映出身で、やや目付きが悪いところ以外は、そこらのカメと何ら外見上の違いがないという創意工夫の一切を切り捨てた天晴れな造形。回転しながら火をまき散らすという、ねずみ花火のような技が得意で、フィギュアスケートのドーナツ・スピンを見ると、これを思い出す。

 最後にガメラは倒したギャオスの亡骸を、活火山の火口まで引きずりながら葬りに行く。思えばウルトラマンは、切り刻んだり粉々に吹っ飛ばした相手の遺体を遺棄したまま帰宅してしまうのだが(持ち時間3分だから、気持ちは分かるけれど)、後片付けを任された当時の日本人の苦労は並大抵のものではなかったに違いない。ガメラには宗教心さえ感じます。ギャオスの姿は、第10巻の113ページ目に出てくる。マグマ大使の隣。

 
 ゴジラに限らず、怪獣映画が衰退したのは、邦画界そのものが全盛期を過ぎて傾き始めたというのもあるのだろうが、私の世代にしてみれば、テレビでウルトラマンウルトラセブンを観られるようになったのも大きいと思う。そして同じころ、ニュー・シネマと呼ばれる、私の人生を豊かにしてくれた目の覚めるような作品群が海の向こうのアメリカからやってくる。時代も少年も移り変わるのだ。諸行無常

 怪獣映画は基本的に怪獣が戦うだけだったが、ウルトラシリーズでは人間さまも一緒に戦う。科学特捜隊のテーマ・ソング、「悪い奴らをやっつけろ...」を今でもときどき口ずさんでいるのは、私ぐらいなものだろうか。ゼットンに敗れたウルトラマンの敵を討ったのは彼らである。あのバッヂを欲しがったケンヂの気持ちが痛いほど分かるんだ。


(この稿おわり)


本日は節分なり。(2012年2月3日撮影)