おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

中間報告は49位     (20世紀少年 第241回)

 第8巻の126ページに、ヨシツネが「死んだことになっている」理由を、本人がコイズミに説明している場面がある。細菌兵器により瀕死の状態のサラリーマン風の冴えない男に「末期の烏龍茶」を飲ませ、相手が亡くなると逃げたが免許証入りの財布を置き忘れたという経緯であった。

 これは説得力が余りないな。日本の治安当局や医療関係者が、昨年の大震災において、どれほど人命救助、行方不明者の捜索、遺体の本人確認に尽力したか、報道された範囲でも生涯忘れることのできない出来事であった。2000年末であれば古来の歯型や血液型に加えて、DNA鑑定も導入されて久しい。よほどの大混乱の中で、間違いや疎漏が生じたか。


 ともあれ、コイズミは信用したようで、「おじさん」は「ヨシツネさん」に昇格した。しかし彼女としては、とにかく家に帰りたい。だが、それを伝えると、ヨシツネは恐ろしいことを語り出した。そして、ヨシツネの巧みな話術と交渉術に、動転したコイズミはすっかり乗せられてしまう。


 まず、ともだちランドから逃げた者は、地の果てまでも追い掛けられて「ともだちワールド」送りになってしまう。さらに、コイズミの研修は50名が参加しているのだが、成績が48位以下の「ワースト3」に入ってしまうと、同じく「ともだちワールド」送りになる運命だそうで、ヨシツネが極秘に入手した文書によると、コイズミの今の順位は49位。まだ下がいたのか...。


 すでに神様から「友民党のでっち上げ」の真相を聴いてしまったコイズミだから、研修に力が入らなかったのも仕方がないのだ。でも、今やそれどころではなくなってしまった。隊長に「ベスト3に入れ。攻略法は教える」と言われると、即座に「教えて〜」ということになってしまった。

 コイズミも落ち着いて考えれば、「ともだちワールド」送りを逃れるためには、トップ3に入る必要はなく、47位以上になれば十分なのである。ヨシツネ自身が149ページでそれを証明している。「ともだちワールド」行きのバスが出て行ったのを確認してから、コイズミに「どうやら47位以上には残ったようだな」と声をかけているのだから。


 しかし、コイズミにとってみれば、とにかく上達しないことにはワースト3に残る確率が高い以上、ヨシツネに教えを乞うほかないな。だが、話はそれだけでは終わらなかった。ベスト3に入ると、「”ともだち”にとりこまれる」、すなわち、「従順になってしまう。ただニコニコするだけになってしまう。何も疑問に思わなくなってしまう」のだ。

 そういう「信者」を、読者はこれまでも数多く見てきた訳だが、かつてヨシツネが攻略法を教えた少年も「とりこまれてしまった」らしく、133ページ目にその姿が描かれている。この少年のなれの果てかもしれない男が、第13巻の第12話に出てくる。コイズミの友人、トモコに新巻鮭を届けにきた殺人鬼。ちょっと似ている。

 そうならないために、コイズミは攻略法を教えてもらうことにした。だが、第7話のタイトルは「依頼」であり、ヨシツネの交換条件は、コイズミに対する依頼事だったのだ。攻略法を教える見返りに、ベスト3の特権であるボーナス・ステージに進んで、「キミが見たものを僕達に報告してほしい」という頼みだった。えらいことになったのだ。


(この稿おわり)


谷中で見つけた「ひょうたん館」(2012年1月4日撮影)