おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ケンヂ一派のご紹介    (20世紀少年 第236回)

 第8巻第5話のタイトルは「ともだちランド」。コイズミが連れて来られた施設の名前であり、彼女の担任教師は「研修会」と言っていたが、ゲームや観覧車があるから、施設の体裁は遊園地だろう。ところで、「Land」という英単語には、手元に2冊ある辞書で調べても、ネット辞書で検索しても、「遊園地」という意味は載っていない。国とか陸とか領域とかいう意味です。

 また、「遊園地」を和英で引いても、「Land」は出てこない。それなのに、日本中の遊園地の名前には「ランド」が付いているものが大変多い。ディズニーランドの影響だろう。しかし推測するに、ウォルトさんの命名の意図は、ディズニー遊園地というより、ディズニーの国だったのではないか。アリスの不思議の国、「ワンダーランド」の影響ではないかな。


 1970年の万博のときも「エキスポランド」という遊園地があったが、それも、「ともだちランド」もディズニーの真似だろうね。あとから出てくる「ともだちワールド」も、フロリダの「ディズニーワールド」からとった名前だろうし、コイズミが参加するアトラクションもディズニーランドのそれとそっくりである。

 私は子供のころから遊園地が好きではない。LAで働いていたから、アナハイムのディズニーランド本店に何回か来客を連れていったし、浦安支店にも二三回、行った。だが、ファンには悪いが、つまらない。子供のころも全く遊園地に行きたいと思ったことがない。遊園地では、遊ぶ設備を選ぶことはできるが、遊びを創ることはできない。


 第5話は、最初にコイズミがケンヂに、バーチャルのゲーム内で襲われる場面などがあり、次に研修生がテロリストたちの紹介を受けるシーンがあるのだが、おそらく時間的な順序は逆だと思う。そうでなければ、ゲームに参加した娘たちが、ケンヂ一派の名前や顔を認識できないだろうから。

 テロリスト紹介研修の風景は、オッチョの顔写真から始まる。まだ若いときのものだが、囚人服らしいタンクトップを着ているので、刑務所に収監されたころに撮影されたものか。「現在、懲役300年の刑に服しております」と説明されている。


 第7巻から第8巻にかけて2014年の出来事の描写が時系列に並んでいるならば、この時点でショーグンと角田氏は、とうに脱獄に成功している。ここでも、”ともだち”は「嘘つき」なのだ。現実の日本では、凶悪犯が脱獄したら、全国指名手配で大騒ぎになるだろうが、オウムの平田のように「この顔見たら110番」的なショーグンと角田氏の顔写真が、あちこちに貼られている形跡はない。

 しかし第7巻では、ホームレスに紛れて隠れていたオッチョを見つけた警官が、「おまえ、どこかで...」と言っているから、警察内では手配がなされているはずだ。それに刑務所長は部下に、3番の死体を持ってこいと命じているのだから、友民党はこの不始末を公表せず、ひそかに抹殺するつもりでいたのだろう。


 次に紹介されるマルオとヨシツネは、「こんな間抜け顔」と言われて会場の笑いを誘っている。マルオの写真は、珍しくラーメンを食べていない。ともかく、二人ともそんな間抜け顔には見えず、むしろ葬儀用の写真に使えそうな、いいお顔である。

 オッチョは本名の落合長治が紹介されているが、なぜかマルオとヨシツネは、この通称だけで片付けられてしまっている。「ともに死亡しておりますので、ご安心ください」だからだろうか。”ともだち”は本当にこの二人が死んだと判断したのだろうか。後にヨシツネが自ら語る当日の死亡確認の一件も、あまり説得力がない。マルオに至っては2014年まで何をしていたのか全く分からない。

  
 最後に登場する映像は、遠藤健児、通称”ケンヂ”。「”血の大みそか”事件の首謀者にして、世界を絶亡寸前にまで追い込んだ悪魔のテロリスト」。そして、”ともだち”が「この世から悪魔を葬り去った」らしい。すでに触れたが、ケンヂの生死についても歯切れが悪い。

 これに続く、「このほかにケンヂ一派には数名のメンバーがいたと言われています。女性の幹部がいたという説もありますが...」という説明振りが、私には不可解です。このナビゲーターが詳しく知らないのは下っ端だから仕方がないとしても、フクベエは、ユキジとモンちゃんと行動を共にしていた。万丈目もユキジと会っている。


 それに、モンちゃんとユキジは、血の大みそかの夜、オッチョと共に友民党の本部に乱入しているのだから、大勢の目撃者がいる。さらに、教科書にも載っている例の写真には6人の後ろ姿が写っているのだから、この二人も追加するのが自然というものであろう。

 ではなぜ、”ともだち”は四人を悪役にし、二人を除外したのだろうか。元ラガーでリボルバーを構えるモンちゃんも、柔道の達人ユキジも、シューティング・ゲームの敵として不足はないと思うが。

 今の私には、判断材料が一つしかない。第16巻の冒頭、少年時代のフクベエがケンヂ、オッチョ、マルオ、ヨシツネの4名を自宅に招くシーンがある(招待者はフクベエで間違いないと思う...)。しかし、漫画を読ませてやったのに、カルピスまで入れたのに、4人は彼を秘密基地の仲間に入れてくれなかった。この時点ですでに、恨み骨髄に徹していたに違いない。


(この稿おわり)



三島神社の縄くぐり(2012年1月2日撮影)