おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

お迎えでごんす    (20世紀少年 第235 回)

 第8巻第4話のタイトルは「お迎え」。62ページ目の見開きに、これまでの主要登場人物が勢ぞろいしている。これは、前話まで続いた2000年末の描写が終わり、2014年に戻るに当たっての一区切りだろうか。血の大みそかに来なかったケロヨンとコンチは描いてもらってないな。

 ドンキーの笑顔は嬉しいが、マライアさんがいないのが淋しい。斜に構えたフクベエが印象的である。ちなみに、今回のブログのタイトル「お迎えでごんす」は、たまに手塚マンガに出てくるキャラクターで、「お迎えでごんす」としか言わない変人(あれは人かな?)なのだが、本編とは何の関係もありません。


 第7巻の103ページに、七龍にドンブリを返しに行く神様と、後を追うコイズミが描かれている。背景に「EXPO 2015 」の横断幕があるが、ロゴ・マークの桜の花びらが大阪万博と比べてトゲトゲしいのは、世相を反映したものか。このあと二人はホームレスの居住地を経由して、一緒に七龍まで来たらしい。その場面が第8巻の74ページ目に出てくる。

 神様から、教科書に載っていることは全部、友民党による「でっち上げ」だと聴かされて、コイズミはせっかくのラーメンが伸びてしまうだろうに興奮状態にあるが、神様は言いたいことを言い尽したらしく、コイズミの相手をやめて、店長さんにカンナが来たかどうか尋ねている。


 カンナは「あれ以来、とんと来なくなっちゃって」しまったらしい。「あれ」以来というのは、それだけで神様に通じているところをみると、おそらくカンナがタイと中国のボスの休戦協定に立ち会い、ケンヂの誕生日にラーメンを供えに行った日のことか。神様はあのあとドンブリを返しにきて、カンナが店に来たことを聞いたのだろう。

 これに続く会話の結果、コイズミは、カンナがケンヂの姪の名であることを知り、神様は遠藤カンナがコイズミと同じ高校の隣のクラスに在籍していることを知った。いつのまにか、運命のがんじがらめになりつつある。コイズミは段々、心配になってきて、こんなに知ってヤバくないかと神様に訊いている。

 神様のご神託は不気味であった。「黙ってたほうがいい。絶対にな。でないと、この年寄りより先に、あの世行きってことになる」。神様はコイズミ相手だとセリフが冴えるのだ。第7巻では、「俺に惚れるとヤケドするぜ」と語っている。ハードボイルド神様だな。


 続くシーンで、コイズミが使っているのは高校のPCであろうか、過去の新聞記事などをウェブで調べてみたところ、1990年の後半以降、「政治家とか弁護士とか警察とか宗教家とか、いわゆる文化人」の変死が多いことを知る(政治家は文化人ではないと思うぞ)。女子高生の変死事件も解決していない。

 恐れをなしたコイズミは、自由研究のテーマをケンヂから大塩平八郎(渋い選択。ケンヂと同じく反乱者ではあるが...)に変更しようとするのだが、先生に拒絶されてしまう。コイズミはすでにケンヂに興味を持ったという理由で教育委員会に通報され、その結果、友民党教育財団が主催する「”ともだち”ランド」の研修会に、参加者として光栄にも選ばれ、明日お迎えが来るのだという。


 壁に「エロイム・エッサイム」のポスターが貼ってある自宅の部屋で、バッグ・パックを抱きしめながら、コイズミは逃亡を決意する。されど時すでに遅く、お母さんが来てお迎えの到来を告げたのであった。このページに小泉家の自宅家屋の絵が出てくるのだが、立派で洒落た一戸建てである。

 後に登場するコイズミのお父さんは、どうみてもお金持ちというよりは、新橋あたりで飲んでいるタイプなのだが、意外と資産家か高所得者なのかもしれない。響子嬢も言葉づかいこそ現代の若者風だが、けっこう育ちが良い感じがする。だから中高年に好かれるのか?


 研修生を載せたバスには、例によって”ともだち”マークが描かれており、行き先は不明だが高速を使い、やがて高台に向かっている。バス・ガイドに進められて、大声で曲がれと言いながらスプーンを曲げると、みんな曲がった。コイズミも曲げて驚いている。かつて書いたように、この物語の世界では、誰でも時々、スプーンを曲げることができるらしい。

 ただ、私はちょっと気になっているのだが、第1巻で市原弁護士ほか1名を相手に、スプーン曲げをしたはずの万丈目が、最後にバーチャル・リアリティー内では曲げて驚いている。第1巻で曲げたのは、万丈目ではないのか? もしかしたら、やっぱり自由自在に曲がるものではないのだろうか。あの喫茶店も、このバスも、すでにスプーンには、仕掛けでもしてあったのだろうか。ともあれ、もうコイズミは帰りたくても帰れない。


(この稿おわり)


今年の東京は寒い。冬来りなば春遠からじ。去年の桜です。
(2010年3月27日撮影)



昨日の朝6時過ぎ。
いつもはラジオ体操の校庭も雪合戦。