おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

13番    (20世紀少年 第212回)

 第7巻での神様の再登場に先立ち、第6巻で実に嫌な男も再登場している。海ほたる刑務所の会議室で、囚人たちに”癒しの音楽”や”癒しの体操”を指導している田村マサオ。恩師ドンキー殺しの共犯者であり、本人がここで述懐しているように、東京ドームでピエール一文字氏を暗殺した奴。ほかにも大勢、殺害したらしい。

 瞑想の指導も行っている。「自らの罪を内省し、宇宙と一体になるのだ」と言っているな。相変わらず殺人鬼のくせに。この男の言動が、最も”ともだち”に近いだろう。弟子の囚人に「なぜ先生のような方が刑務所に?」と訊かれ、マサオは「君たちと同じだからだよ」、「私もここにいることで自らの野獣を封じ込めているのかもしれない」と答えている。野獣は刃物やライフルで人を殺したりはしない。野生動物に失礼だろう。


 彼は羽織っていた黒いコートの前を開けて、自分も囚人番号を持っていることを示している。13番。この男も後に、イスカリオテのユダのごとく、主を裏切り、そして自死するのだが、なぜ西洋で13が不吉な数字なのかについては諸説あり、ユダの席順とは関係ないのかもしれない。それに、イエスを裏切った弟子はユダだけではない。福音書にはっきり書いてある。

 同じスナイパーという職種の関連でいえば、ゴルゴ13がいるな。私は30年にわたるビッグ・コミックの愛読者なので、「ゴルゴ13」(大阪出身の先輩は、「ごるご・じゅうそう」と呼んでいた)のシリーズは、かなり昔から知っている。私がこれまで住んだり旅したりした世界中の風景が見事なリアリティで描かれているし、プロットも殺害方法も毎回、創意工夫に満ちているが、所詮、人殺しは人殺しに過ぎない。


 野獣云々はともかくとして、13番が自発的に刑務所にいるらしいのは、所長の甘粕屋が彼に敬語を使っていることからも窺い知れる。そして、ときどき「宇宙からの指令」が来て、出稼ぎに行くらしい。今回の業務は、歌舞伎町に来る「とんでもない大物」が相手だそうだ。

 その前に行きたい所があると言って、13番が訪れたのは「地下の特別懲罰房」であった。そうか、地下にあったんだ。会った相手は3番。その3番は黒いコートを着たままで囚人番号が見えない相手に向かって、「13番...」と言っているし、13番も「10年ぶり、いや、それ以上か...」と語っているので、両者はかつて会ったことがあるに違いない。オッチョの過去の脱獄時か? お互い番号が若いということは、海ほたる刑務所の初代囚人として同期かな。


 13番は、仕事で外に出ることになったと伝えたうえで、「君の”最後の希望”にも関係があるようだ」と言う。なぜ13番が「最後の希望」のことを知っているのか不明だが、血の大みそかにオッチョはユキジに対して、「お前とカンナは最後の希望だ」と語っているので、それをトランシーバーで傍受したのか。

 さらに、13番は「場合によっては、”神の子”といえども、”絶交”しなければならないかもしれない」とまで言い、3番を激怒させている。第9巻の最後に、ケンヂがオッチョに対して、「カンナは姉貴と”ともだち”の間に生まれた子かもしれないんだ」と語っているシーンがある。ショーグンは確信を得た。

 それにしても、13番はなぜこのタイミングで、このことを3番にわざわざ伝えに行く必要があったのだろうか。性根の腐った男だから、嫌がらせのためか? 火に油を注ぎかねないことが分からなかったのだろうか。「バケモノ」同士、共感でも持っていたのだろうか。ショーグンはますます急がねばならない。独房から出る角田氏に調査命令が下った。


(この稿おわり)



町内にて。 (2012年1月1日撮影)