おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

大脱走 【前編】    (20世紀少年 第208回)

 私は映画が大好きです。このブログで、映画にほとんど触れて来なかったのは、語り出すと止まらなくなる恐れがあるからなのだが、今回はちゃんと漫画に映画が出てくるので堂々と書ける。第6巻第10話のタイトルにもなっている映画「大脱走」は、私やオッチョが少年だったころ、日本でも大ヒットしたアメリカ映画である。

 マルオの「夕べ観たか?」というだけの簡略な質問に、ヨシツネの「観た観た!」という即答が嬉しいではないか。これだけで会話が成立するのが友達というものだ。続くマルオのセリフに出てくる「ゴールデン洋画劇場」は、当時のテレビ映画番組の名前。

 
 昔の一般家庭は、子供にテレビを見せないという家が少なくなかった。建前は、教育や目に良くないからだが、本音は、一家に一台しかないTVのチャンネル権を、子供ごときに渡してなるものかであった。私の実家も同様であったが、幸い祖父や両親が映画とスポーツ番組を好んだため、ご相伴にあずかっておりました。今でも私は民放では映画とスポーツしか観ない。

 そのころの静岡は民放が二局あり、それぞれゴールデン洋画劇場と月曜ロードショーを放映していたと思う。ゴールデンとは放映日である金曜日の「金」を安直に訳したのだろうが、ゴールデンは「金色」であって「金」ではない。私はこのゴールデン洋画劇場で「大脱走」を観ている。これはなぜか、はっきり覚えている。

 ネットの諸情報によると、ゴールデン洋画劇場は1971年4月に放送開始とある。第6巻の177ページにも1971年とある。私は小学校5年生、マルオやヨシツネは6年生だ。この年の夏、ヨシツネは一人で秘密基地を守った。理科室の夜、ドンキーが何かを見た。今回のシーンは、そのあとの冬だろう。


 ここから先は記憶があやふやなのだが、ゴールデン洋画劇場は「大脱走」を「再放送」しているはずである。浦沢さんも私も、そのどちらか、あるいは両方を観たのだ。この年の暮れだったか、同番組は視聴者にアンケートをとり、人気を得たトップ3の映画を再放映した覚えがある。

 3位は忘れたが、2位が「大脱走」、1位は「トラ・トラ・トラ!」。真珠湾攻撃の「ワレ奇襲ニ成功セリ」だな。両方とも第二次世界大戦が舞台である。私の叔父は南海で戦死し、両親の一族は空襲で逃げ惑った。この当時の視聴者は戦争体験者が多かったのだ。


 ヨシツネが「大脱走 前編」と叫んでいるように、この作品は3時間くらいある長尺だったため、2週に分けて放映された。マルオが悔しがっているように、私たち静岡少年も「待ち遠しい」と言っていたものだ。

 ちなみに、マルオは「なんで、あんないいところで『来週に続く』になっちゃうんだろうな」と悔しがっているが、私の印象では、決して「いいところ」ではない場面で終わっている。脱走用のトンネルの一つが見つかってしまい、ヨシツネのような、感じの良い囚人が銃殺される場面だった。

 
 ところで、この映画に出ているスティーブ・マックイーンやジェイムズ・コバーンやチャールズ・ブロンソンも出演したハリウッド映画「荒野の七人」が、黒澤明監督畢生の名作「七人の侍」のリメイクであったように、よほど古い映画ファンでないとご存じないかもしれないが、この「大脱走」もリメイクである。

 本家本元の映画も、同じ歴史上の出来事を扱っており、こちらはコンパクトな白黒映画だったと思うが、なかなか味のある良い映画だった。ケンヂが真似をしている土を捨てるシーンもあった。残念ながら、その映画のタイトルを覚えていない。小脱走かな。


(to be continued)


近所の谷中商店街にて(2011年12月11日撮影)