おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

お守り    (20世紀少年 第205回)

 第6巻第8話の「お守り」は、斉木先輩が蝶野刑事に対して、俺の机の上にあったぞと言いながら、お守りの束を手渡すシーンから始まる。これ、お前のだろと先輩は言っているから、蝶野刑事がお守りをたくさん持っているのは周知の事実であるらしい。若い刑事がそれでは、チョーチョなどと揶揄されても仕方がないな。

 しかも、どこかに落したか放置したしたか、忘れたままとは親不孝ではないか。彼の母親とは、第2巻で彼の誕生日に、この世を去る直前のチョーさんが携帯電話で話していた相手の裕美子さんである。彼女はよもや父が警察官に殺害されたとは知らない。


 知っていれば、息子が警察官になるのを許したはずがないもんね。それでも、そこは親心、母の愛、お守りと見れば買ってしまうのだ。血の大みそかの犠牲者ではなくとも、”ともだち”記念館の石碑にその名が刻まれているということは、チョーさんは”ケンジ一派”の細菌兵器で病死したと見なされたに違いない。

 そう聞かされている以上、裕美子さんも将平刑事も、ケンヂ一派に対しては激しい憎悪を抱いていて当然であり、もしも、この時点で蝶野刑事が、カンナの出自を知ったら大変な騒ぎになったころだろう。しかし、この点は後ほど作者の巧みなストーリー展開で解決したようだ。


 お守りは、7つも8つもありそうだ。「厄除」はわかるが、「えんむすび」というのは、どうだろうね。文字どおり、お守りと見れば買ってしまうに違いない。持たされる息子も一面では迷惑だろうから、彼はそれらにいつの間にか発信機が仕込んであるのも知らずに、カンナとニューハーフたちにも配ってしまう。重ね重ね、うかつであった。

 しかし、ヤマさんに「立派にやってるじゃないか、頼もしいぞ、蝶野刑事」とおだてられて多少は気合いが入ったらしく、自分の衣類を持参して、ブリトニーさんに男装して逃げるよう求めたのは、マライアさんに「センスの悪い服」と酷評されようとも冴えたアイデアであった。もう少し冴えていれば、その場からすぐに逃げただろうに、公務中にビールで乾杯など始めたから手遅れになった。


 ともあれ、相変わらず「信じらんない」と不審顔のカンナに対して刑事が、アルバイトの彼女が行方不明になって珍さんが忙しく、あのままでは倒れちまうぞと言っているのは親切である。彼女もこれで少しこの刑事を見直したに違いない。さっそく珍宝楼に戻ると、さっそく珍さんにこき使われてしまう。

 カンナがお守りを受け取ったのは、それが彼の「お母さんのお守り」だったからだ。彼女は母を知らない(知れば知ったでショックだったのだが)。彼女が珍宝楼で、もう一度、お守りを取り出したのも、お母さんのお守りだったからだ。ところが、手応えに違和感があり、中身を確かめると発信機が転がり落ちた。

 カンナは、おっとり刀ならぬ、おっとり中華鍋で潜伏先の倉庫に急行する。しかし、事態は全て手遅れとまでは言えないものの、ある程度まで進行してしまった後だった。お母さんのお守りは息子を守ったかもしれないが、残念ながらブリトニーさんには効かなかった。


(この稿おわり)


近所にある、お守りの自動販売機。うーむ...。(2011年12月4日撮影)