おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

カンナはどこで育ったか (20世紀少年 第186回)

 第5巻の133ページ、店内の銃撃戦で死んだ客の財布からも代金をもらったと、自慢話をしている珍宝楼の店主の珍さんに「あの売れないニューハーフ」と呼ばれているのがマライアさんだ。カンナは金のない彼女に食事代を立替てやっているらしいのだが、珍さんに給料3か月分は「すでにタダよ」と言われて驚いている。

 私にはニューハーフとオカマの区別がつかないし、それらとゲイやホモとの違いも分からない。そもそも違うのかどうかも興味が無い。同性愛は勝手にやってもらって一向に構わないが、その昔、サンフランシスコでカップル限定のパーティを開催したとき、参加者の男の一人がうるんだ瞳を輝かせて、「My boyfriend」と言って男を紹介してきたのには、率直に言って参った。

 当時は、ちょうどアメリカでエイズが社会問題化して間もないころだったから、私の拒絶反応は、今となっては人権無視と言われようが、生理的、反射的なもので仕方がなかったと思っている。それを引きずっているせいか、今でも男の同性愛だけは、どこか遠いところで好きにしてほしいと思っている。

 念のため、差別するつもりはありません。好き嫌いの問題は私の自由です。いや、これでもまだ誤解を招いてしまうかもしれない。私はマライアさんやブリトニーさんが一所懸命、働いている姿に不快感など覚えはしない。直接の知り合いはいないが、こういう人たちには心やさしい人が多いと聞く。


 店の周りでは銃声が鳴り止まない。マライアさんによると、「いよいよ今夜あたり、ねーざん通りの攻防戦ね」ということらしい。とうとうタイ側が、中国側を侵食し始めたようなのだ。ねーざん通りというが歌舞伎町に本当になるのかどうか知らないが、香港にネーザン通りがあるのは知っている。一度だけだが、香港に一人旅をして、歩いているからだ。

 当時の香港は、まだ返還前で、イギリスの植民地であった。ネーザン通りは、記憶に間違いがなければ香港の中心街を背骨のように走っているメイン・ストリートの名前である。近くに九龍という地名もある。歌舞伎町のねーざん通りにある七龍というラーメン屋が話題に出てくるが、あるいはこの地名からヒントを得たものかもしれない。

 香港では、街角で朝食にいただいたお粥が美味しかった。千切りにした生姜がふりかけてあった。そして、ここ歌舞伎町の七龍ラーメンは、カンナによると「子供の頃、おじさんとよく食べに行ったラーメン屋さんの味とそっくりで」あるため、ねーざん通り攻防戦から救出しなければならないらしい。


 珍さんが止めるのも聞かず、カンナは「ケンカの仲裁」に出て行く。珍さんはケンカと言っているが、本物の国際銃撃戦なのだ。カンナはそれぞれの陣営に、日本語と中国語とタイ語で怒鳴り散らして発砲を止めさせ、ピストルの構え方まで指南している。

 一体、カンナは武術、銃の取り扱い、外国語などといった諸芸を17歳にして身につけているとは、どこでどうやって育ったのであろうか。200ページでユキジが、山形のおばあちゃんの家を飛び出し、ウチまで飛び出してとカンナに説教しているから、場所はそのどちらかだろう。


 もしかしたら、血の大みそかからずっと、東京にいるのかもしれない。全く描かれていないので見当もつかないが、しかし山形のおばあちゃんのところで教わることができるようなものでもなさそうなので、東京仕込みか。しかし、ユキジが教えるなら柔道だろうが、カンナの武芸は空手か、それに類するものだ。

 謎である。誰か教えてくれないかな。もっとも、カンナは赤ん坊のことからの超能力少女なので、百芸に通じていてもおかしくないか。とにかく、マフィアの両陣営を黙らせて、「文句があるなら、それぞれのボス、連れてらっしゃい」と啖呵を切って七龍ラーメン店に入ってゆく。そして、それぞれのボスが本当に来た。


(この稿おわり)


恵比寿駅前のエビス様。(2011年11月18日)