おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

常盤荘のウジコウジオ     (20世紀少年 第184回)

 第5巻第7話は「さいかい」。カンナが入居する共同住宅の名前は「常盤荘」という。この名は、大家さんの氏名「常盤貴子」と、かつて手塚治虫ほか多くの漫画家が暮らし、お互い切磋琢磨して腕をみがき、巣立って行ったアパート「トキワ荘」を掛けているのだろう。

 大家さんについては、後にユキジとの会話が出てくるので、そこで触れよう。そして、トキワ荘については、その名が知れ渡ったころには、私はもう少年マンガからほとんど離れていたので、正直なところあまり関心が無い。ともあれ、こちらの常盤荘は、おそらく木造二階建てで、相当、年季が入っている様子である。

 
 「20世紀少年」は無数のマンガやアニメから題材を拝借しているが、漫画家の登場人物も3人いて、一人はショーグンと脱獄逃避行を共にする角田さん。つのだじろうがモデルだろうか? 私は彼の作風があまり好きではなく(すみません。怖かったのです)、「空手バカ一代」ぐらいしか印象に残っていない。

 残りの二人が常盤荘の住人、氏木氏と金子氏で、金子さんの命名により「ウジコウジオ」という二人ひと組のペンネームに決まった。もちろん、モデルは藤子不二雄。金子さんはこれ以降あまり登場場面がないが、氏木さんは後にケンヂと邂逅し、通行手形の偽造という国家的犯罪にして崇高なる使命を果たす。


 作者の浦沢さんが、どのような理由でこの3人の漫画家をモデルに選んだのか知るべくもないが、少なくとも、藤子不二雄は登場する権利(?)があるように思う。なぜかといえば、「忍者ハットリくん」は彼らの作品だからだ。私自身は「パーマン」と「オバケのQ太郎」が大好きであったが、ハットリくんの印象は今ひとつ薄い。アニメを観ていないせいか。

 フクベエの苗字「服部」は、おそらく、このお面をかぶらせることが先に決まり、それでは名前は服部だという順番で決まったような気がする。推測も含めれば、ハットリくんのお面をかぶってフクベエが登場するのは、1997年のともだちコンサート、2000年の血の大みそか、2015年元日の夜の理科室。

 相手はいずれも20世紀少年、かつての同級生たちだ。ハットリくんのお面は、性格が複雑骨折しているこの男ならではの旧友に向けた「自己紹介」なのだ。でも死ぬまで誰も、それに気付いてくれなかった。


 氏木さんによると、二人は「CG全盛のマンガ界に、紙とペン先と墨汁で、新風を巻き起こす!!」つもりなのだ。この場面に描かれている「開明墨汁」というのは実在し、漫画家御用達であるらしい(開明株式会社のサイトによる)。さすが、商売道具は本格的である

 とはいえ、二人は1台の電気スタンドを共同利用しているし、壁には「節水」と書かれた紙が貼ってある。成功まで、もう少し時間がかかりそうだ。


 さて、隣室から騒音が聞こえてきて、金子さんが怒鳴りこんだところ、Tシャツにショーツという、あられもない恰好でカンナが武芸のけいこ中であった。騒音は「叔父さんの作った曲」であるらしい。ただし、彼女が聴いていたテープに入っているのは、血の大みそかに録音された「ボブ・レノン」ではなかろう。

 なぜならば同曲は生ギター一丁のライブ録音である。しかし、カンナが常盤荘で聴いていた曲は、擬音語として「ズドドコヅドガン」とか、「ボムブボボムボ」とかいった、リズム・セッションらしき音が入っている。

 前者はチャーリーのドラムス、後者はビリーのバス・ギターだな。これを聴き込んでいたから、カンナは春波夫先生のドラムを聴き分けることができたのだ。


(この稿おわり)




上野公園はイチョウの黄葉が美しい。(2011年11月20日撮影)