おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

屋上の忍者ハットリくんは誰?    (20世紀少年 第170回)

 前回までに、あれこれ考えた結果、私はフクベエがパラノイア的人間であるとの仮説に至りました。すなわち、事実や論理によって修正され得ない妄想の持ち主であり、自分が正しいと信じ込んだことは正しく、嘘をついているという自覚すらないのかもしれない。

 すると自ずから、その言動は迫真さを帯び、平気で人を騙ろうとするし、しばしばそれに成功するというのも不思議ではない。彼が築き上げた虚構の世界が魅力的であったせいか、山根が騙されキリコが騙され、そして今やケンヂが騙されようとしている。

 
 フクベエとケンヂは南新宿のビルの屋上で、リモコンらしきものを操作中と思しき男を発見した。ただし、忍者ハットリくんのお面をかぶっていて顔が分からない。フクベエはその男に向かって、しかし実はケンヂに向かってであろう、自分の女房が「お前の団体」に引きずりこまれたと話し始める。

 これはまんざら大ウソではないかもしれないな。フクベエの女房とはキリコであり、彼女は”ともだち”の団体に引きずり込まれたのだから。ケンヂは、すでにこの話を1997年の同級会の夜に聞かされているから、フクベエを疑うべくもない。


 そしてフクベエは、もの言わぬハットリくんに対し、「おまえ、サダキヨだろ?」という、ケンヂにとって驚くべき問いを放つ。サダキヨは、マルオが聞いた噂によれば中学生のときに転校先で死んでいたはずなのだ。しかし、フクベエはケンヂからその話を聞くと、「友達の友達の噂ほど怪しいものはない」という、この物語でお馴染みのセリフを吐く。

 実際、後の展開においてサダキヨは死んでいなかったことがわかるので、フクベエはその点で正しい。では、このハットリ君がサダキヨかどうかについては如何? 結論からいえば、この男が誰なのか最後まで分からないのだが、サダキヨであっても矛盾はない。血の大みそかで彼がどこで何をしていたかは、最後まで出てこない。


 それに、このころのサダキヨは、相変わらずフクベエの言いなりであったはずなのでこのような危険な任務も引き受けざるを得ないだろうし、何より、お面をかぶってうろつくことにかけては、小学校以来、年季が入っているのだ。

 のちに第9巻のバーチャル・アトラクションの中で、ハットリくんのお面を脱ぎ捨ててコイズミを絶叫させているのは、子供の身体に大人の顔を載せたサダキヨであった。また、第10巻で「ともだち博物館」の館長として、コイズミの前にハットリくんのお面をかぶってみせるのもサダキヨであった。


 少年時代のサダキヨは、ナショナルキッドお面が専門であり、ハットリ君のお面は使っていない(同窓会でのケンヂの記憶の中を除く)。20世紀にハットリ君のお面を使っているのは、ともだちコンサートの”ともだち”と、この場面のリモコン男。そして、21世は上述のとおり、サダキヨだけが使用者として描かれている(誰なのか不明なものを除く)。

 こうしてみると、大人になってからのサダキヨは、フクベエの代役としてハットリ君のお面をかぶって、”ともだち”の身代わりを務めされられていたのではないかとの推測も成り立つ。ということで、この場面の”ともだち”役のハットリくんは、サダキヨである確率は高いように思う。検証しながら読み進めましょう。


(この稿おわり)




忍者ハットリくんが立っていた場所から、新宿御苑を望む。
(2011年11月16日撮影)