おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

俺たちの仲間の印     (20世紀少年 第161回)

 大みそかの出陣を前にケンヂが最後に声をかけたのは、見送りにきたカンナであった。カンナは目にいっぱい涙を浮かべている。彼女の後ろに、神様と3人のホームレスの姿も見える。血の大みそかからカンナを救ってくれたのは彼らであろう。

 ケンヂは「泣くな」とカンナを戒め、続いて、「人には一生に一度、どうしてもやらなきゃいけないことがある。おじちゃん、絶対戻ってくる。だから泣くな。」と語っている。後半の「戻る約束」は、確かに守った。


 だたし、前半の「一生に一度」は間違いで、ともだち暦3年に、ケンヂは再び「やらなきゃいけないこと」ができてしまい、その瞬間に、この血の大みそかの別れのシーンを思い出す。その場面が、第22巻の214ページ目に出てくるのだが、そのときまた話題にしよう。

 ところで、少なくともこの見送りの際、カンナとフクベエは、お互いを見ているはずである。超能力少女カンナも、このときはまだ幼すぎて、父親とは分からなかったのか?フクベエは何を考えていたのだろう。残念ながら彼の顔は描かれていないので見当がつかない。


 カンナが「うん」と応えて、ケンヂは「さあ、そろそろ」と言いながら、思い切り重いに違いない腰を上げるのだが、ヨシツネが「あの、その前に一つだけいいかな」と質問を投げてくる。相手はオッチョで、例のマークをどういう意味で作ったのかと、こんなときに訊いてきたのだ。

 オッチョは近くにあったコンビニから無断で週刊少年サンデーを持ってきて、左手マークと「目玉のオッチョ」を組み合わせて、このマークを作ったと解説する。ただのそれだけかとマルオとモンちゃんが驚いて、みんなで長閑そうに笑っている。恐怖をまぎらわせるために。

 
 先ほど「こんなときに」と書いたが、ヨシツネは本当に良いタイミングで、このマークの話題を出しているのだ。第1巻の190ページで、ドンキーが作った旗を缶に入れて埋めながら、ケンヂ少年は、「次にこれを掘り起こすときは、地球に大変な危機が訪れているときだ。そして、俺たちが敵から地球の平和を守る時だ」と宣言している。そのとおりになった。

 そして、その旗に描かれたこのマークは、第1巻の36ページ目、考案者である目玉のオッチョが絵に描いて示しながら「この印は、俺たちの仲間の印だ。このマークを知っている奴は、本当の友達だ」と語っている。ヨシツネはこれらの出来事を覚えていたのか、無意識なのか知らないが、仲間にこのマークの由来を思い出すべき時に思い出させたのだ。


 そういうわけで、ヨシツネの質問に応じて、「で、一丁上がりだ」と応えるオッチョの目付きは、久しぶりに少年時代のそれに戻っている。そしてケンヂも、秘密基地解散の日と同様の言葉で出撃の合図を仲間に送った。「さてと、行くか。地球の平和を守るために」。

 さてと、このあと漫画は、ケンヂたちの目の前で燃え立つ炎と巨大ロボットの姿を映して中断し、第1巻の冒頭に出てきた21世紀の国連表彰のシーンを繰り返して、2014年のカンナの物語に跳ぶ。しかし、この感想文では時系列を優先して、引き続き血の大みそかの出来事を追うことにする。ということで、しばらくの間、第7巻と第8巻に移ります。


(この稿おわり)



ある貯水池の風景。伝説のライ魚は居るか。(2011年10月5日撮影)