おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

よげんの書 (三)      (20世紀少年 第146回)

 前回からの続き。スケッチブックの「よげんの書」から破り取られた絵は、何が書いてあって、どこに消えたのであろうか。肝心の作者ケンヂは、例によって記憶がない。紙の表裏に描かれていたなら、絵は3枚か4枚、紛失したことになる。

 傍証がある。第16巻の21ページ目に、秘密基地に無断侵入したフクベエとサダキヨが出てくる。フクベエが手にしているのは「よげんの書」の原本であるが、これには現存する「きょだいロボット」の絵と、行方不明と思われる「レザーぢゅう」の絵が載っている。


 この2枚の組み合わせを、私たちはすでに見た。それはモンちゃんが思い出して掘り出した、秘密基地ゆかりの品を収めて埋めた缶の中から出てきた。この2枚の絵は、第1巻の第9話にも、第3巻の第1話にも、同じデザインで出てくる。しかしながら、リング式のノートから破り取ったような痕跡は無い。

 それは切りそろえたと考えたくても、そもそも「きょだいロボット」の絵は、2000年の時点でも「よげんの書」に含まれているのだから、缶から出土した2枚は、スケッチブックとは出所を異にするものであろう。少なくとも、きょだいロボットの絵は2枚ある。消えた絵の行方は、とうとう分からないままなのだ(と思う、今の時点の私は)。


 そもそも、「よげんの書」は、なぜ缶と一緒に基地跡に埋められず、ケンヂの家の庭に埋められたのであろうか。スケッチブックが大きすぎて缶に入らないという理由を考えてみた。可能性なきにしもあらずだが、この缶は、ドンキー作の旗も収納されたもので、基地の解散式に欠かすことのできない重要な記念碑であった。

 そういう機会に、「よげんの書」なしで済ますというのは、ちょっと淋しい。となると先に「よげんの書」は埋められてしまっていて、せめて2枚だけでも同じ絵を描き直して、缶に入れたと考えるのが自然である。


 ではなぜ、「よげんの書」が先に埋められたのかというと、あるいは、ヤン坊マー坊に見つかったため、基地から担ぎ出し、緊急避難的にケンヂの家に隠したのではあるまいか。これなら、双子も「よげんの書」を知っていたというケンヂの発言と平仄が合う。最後のほうのページが破られたのも、もしかしたら、こういう経緯に関係があるのかもしれない。

 最後のページが消えた理由は、もう一つ考えられなくもない。少年時代、基地の仲間以外の誰かが、盗んだ。例えば、「しんよげんの書」を作るために必要と思ったか。この疑惑は、容疑者全員死亡のため、詳細は永遠に不明である。ともあれ、ケンヂたちはシナリオを失い、作戦を自分たちで考えざるを得なくなりました。


(この稿おわり)


 
お江戸の学問の神様、亀戸天神社スカイツリーが借景になった。
モネの睡蓮で世界中に知られることになった橋のシルエット。
(2011年10月16日撮影)