おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

拳銃とダイナマイト (20世紀少年 143回)

 第5巻の56ページ目に、拳銃が4丁、出てくる。「パイナップル・アーミー」では、原作こそ別のお方だが、それにしても多種多様な武器を丁寧に書いておられた作者であるから、ピストルの写実などお手のものであろう。いよいよ、本格的な戦闘開始である。

 オッチョが「新宿で買ってきた。けっこう、ボラれたけどな。」と言っている。オッチョに高値をふっかけるとは、いい度胸してやがるじゃねえか。ええ? 命拾いしたと思いねえ。しかし銃だけで弾丸がない。装填されている分しか買えなかったか。


 私はピストルを2回、撃ったことがある。最初はバンコク、2回目はロサンゼルスで。いずれも合法です。バンコク(これを書いている今、タイは大洪水で大変なことになっている)では、現地の旅行代理店に連れて行ってもらった観光客用の遊び場で撃った。

 これに対し、ロサンゼルスは本格的であった。店に入ると大きなガラス貼りのショー・ケースが設けてあって、中に銃器や弾丸がずらりと並んでいる。撃つ時は係の人が注意事項とか、撃ち方の説明などをしてくれる。つまり、そこは自分の拳銃を撃つ練習をしたり、店で買う商品の試し撃ちをする場所でもあるのだ。


 標的は、厚手の紙に描かれた人間の上半身のシルエットである。私の場合はほとんど当たらず、何十発も撃ったのに数個の穴しか空いていない標的の紙をお土産にくれながら、係のひとがこういったものだ。「今度、来るときはボスの写真を持ってこい。よく当たるぞ。」

 このときは2種類の拳銃を触らせてもらった。最初に使ったのはS&W、ダーティー・ハリーでクリント・イーストウッドが愛用した天下のスミス・アンド・ウェッソンである。2つ目は忘れたが、係のおじさんが「次はマグナムを使おう」と言っていたのを覚えている。どちらもオートマチックであった。


 さて、オッチョが調達してきたのは、「トカレフ、コルト・トレーバー、ベレッタ」であるらしい。私が見てわかるのは、黒い星のマークでおなじみのトカレフだけ。カンボジアでも、何度か見かけた。
 
 ベレッタはイタリア製である。私がカリフォルニアにいたころ、ゼネラル・モーターズ社が「ベレッタ」というスポーツ・タイプの車種を出した。先輩が乗っていたので覚えている。これが商標の争いになった。「イタリア拳銃」対「アメ車」で裁判になり、記憶では、やはり先輩のピストルが勝ったように思う。

 
 続いて、ケンヂがダイナマイトを運び込んでいる。これはピストル以上に、そこらで容易に買えるような品物ではないと思うのだが、入手方法はついに不明のままである。私もダイナマイトの試し撃ちはしたことがないな。

 おそらく、オッチョとケンヂは、連れ立って買い物に出かけたのであろう。そう思う理由は、実際には血の大みそかの夜、この4丁の銃をヨシツネ、ユキジ、フクベエ、モンちゃんが持っているのだが(モンちゃんにリボルバーが良く似合っている)、加えてオッチョとケンヂも銃を携帯しているからだ。

 二人は自分の好みの獲物は先に頂戴して、残りを仲間に渡したに相違ない。そして当日、発砲したのはオッチョだけである。それも言わば威嚇射撃であった。


 凶器を前にして、ケンヂは語る。「やめたい奴はやめてくれ。俺は止めない。俺が、やめたいくらいだけどな」。みんなが苦笑していると、そこに顔色を変えた神様が駆けこんできた。神様、お久しぶり。神無月は(カンナは10月生まれだろうか)、出雲あたりにご出張中でしたか。

 神様は凶報をもたらした。「悪い夢見た。おまえら、早く逃げろ。”奴ら”がここに突入してくる」。かくして、戦闘開始の当日早々、最初の作戦行動は敵前逃亡となってしまった。


(この稿おわり)



夕顔にも双子誕生。ヤン坊マー坊。(2011年10月20日撮影)