おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

双子の社長と副社長    (20世紀少年 第140 回)

 ともだちや万丈目の所業は、もちろん決して許すべからざる極悪非道ではあるものの、この私には、かすかに彼らからも心の痛みのようなものが伝わってくるところがあり、それがこの物語に陰影のある味わいを与えているように思う。

 しかしながら、ヤン坊マー坊だけは、どうにも好きになれん。応援や擁護をしようという気分が、一かけらも湧かない。反省というものがない。暴力に与し、あるいは自ら行う。傲慢であり、裏切り者である。しかも、全てにおいて、その2乗なのだ。


 子供のころ肥満児体型だった双子は、第5巻の2000年になって、いかにもビジネス・エリートらしい風貌、服装、言葉づかいの2乗になって登場する。「Y&M co」というIT関連企業の社長と副社長らしいが、区別がつかない。ただ一箇所、異なるのは、七三分けの前髪が右から分けられているか、左からかの違いです。

 この髪型の左右対象の違いは、小学生時代も同様である。おそらく、二人の区別がつかなかった親が、やむなく、そうしたに違いない。私は、自分の双子の子供を区別できない父親を知っている(さすがに母親は認識できるが)。ちなみに、後年、科学技術庁になった兄のマー坊は、むかって右から分けている。本当に、どっちでも良いけれども。


 とはいえ、彼らにも少しは「まとも」なところもあって、役員会らしき会議場において、大失敗の責任を追及され、辞任を迫られている長塚営業担当専務の窮地を救っている。彼は双子と共に、3人だけでこの会社を大きく育てた創業期の貢献者であったらしい。後に、殺人ウィルスで命を落とすことになるが...。

 ヨシツネが登場する。ケンヂが二人に出した手紙の返事が来ないため、独断で督促に来た。双子に「仲良く遊んだよね」といわれて、さすがにヨシツネも怒りに耐えかねているが、今日はお願いにきたのだから、怒っては駄目。仕返しのチャンスなら、あとであるから。

 ヨシツネは双子から即答をもらえず、代わりにケンヂへのメッセージを託される。「僕らは古くからの友達だ。君はひとりじゃないってね。」というのだが、この学校の卒業生は「ともだち」の意味を履き違えている者が多すぎはしないか? ヨシツネはやや心動かされた様子で、「君ら、変ったね」とつぶやいているが、そう、もっと悪くなったのだ。


 場面は変わって、小料理屋らしき「川波家」という高級そうなお店。お膳に焼物が載っていて美味しそうだ。ヤン坊マー坊は上座にすわっているから、どうやら接待を受ける側らしい。接待する側は一人だけで、万丈目のやつ。今も昔も変わらない政治家と財界の癒着の構図。

 テロリストの話題が出た頃あいを見計らって、双子は万丈目にお願いごとを頼む。指名手配ケンヂは「幼なじみ」なので、罪一等を減じてほしいという依頼であった。万丈目は知らばっくれているのか、本当に知らないのか分からないのだが、ケンヂの場所を二人から聞き出してしまう。狐と狸の化かし合いのようなものだな。


(この稿おわり)



カモメのいる宿。 (2011年10月4日 宮城県にて撮影)