おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

娘の職場     (20世紀少年 第130回)

 まことに意外なことに、敷島教授の娘は、2000年の夏時点でケンヂの同僚であった。二人が働くお店の名前は、すでに出てきたが「パパイア天国」という。パパイアは言うまでもなく熱帯産の美味しい果物であり、私の好物である。

 カンボジアで聞いた話では、最初の収穫が二番目以降より断然、美味しいので、一回収穫すると木を切り倒してしまうそうだ。次のがすぐに勝手に生えてくるので問題ないらしい。なぜ、風俗店にパパイアの名前が使われているのであろうか。深い意味があるのであろうか。


 業態は看板によると(ケンヂうさぎが持っていたプラカードにも書いてあったが)、ファッションヘルスであるという。この和製英語(だと思う)、英米人は理解できるとは思えないし、しかも現物をみたら驚倒するだろうな。

 ちなみに、私はお世話になったことがないので、ファッションヘルスが何たるかを全く知りません。ただし、繁華街の1階で堂々と営業しているのだから、法律に触れることはしていないと思う...。


 濃い色のサングラスで人相を隠しているケンジは、レナちゃんを御指名する。ポン引きによると、サービスのコースを選ばないといけないらしい。ケンヂはあてずっぽうに指差しているが、どうやら看護婦コースが当たったらしい。

 敷島教授のゼミ生から入手した情報により、彼は恥を忍んで(と思いたい)水商売のウサギ役になり、この日この時を待っていたのだ。レナちゃんこそ、胸のほくろを確かめるまでもなく水島教授の娘であった。レナちゃんが手にしているクリップ・ボードにはカルテらしき紙と一緒にゴム製の避妊具がはさんであるから、サービス内容の一端を窺い知ることはできる。


 ケンジは彼女を連れ出そうとしている。彼女の身柄さえ無事、確保できれば、敷島教授が言いなりにならずに済むだろう。もしかしたら、オッチョが見た巨大ロボットの写真は仕掛品で、仕上げを阻止できるかもしれない。それに、ともだち関連情報を彼女から引き出すこともできるかもしれないのだ。しかし、彼女は聞き入れなかった。

 レナちゃんの説明によると、この仕事は、地球平和のためにお金がいると「彼」に言われてやっていて、それには疑問を抱いているが、もう帰るところがないのだそうだ。また、”ともだち”によれば、「2000年12月、この世は終わる。地下の帝王ケンヂが、9人の悪魔が解き放たれる」、そして「地の底からアレが立ち上がる。ビルの街にガオー」だそうだ。


 彼女はさらに、「今、アレは眠っている。大いなる目覚めの時を待っている。カスミガセキで。」と語った。これが、ある種のお誘いであることも知らず、ケンヂは彼女を連れ出すのを諦めた。

 彼が出て行ったあとで、諸星さん殺しの優男が、レナちゃんとじゃれているシーンが出てくる。彼女に「どうだった」と訊かれて、「上出来だ。主演女優賞ものだ。ともだちも喜ぶよ」と応え、二人でニヤニヤしているところから、ケンヂには嘘をついたこと、二人とも”ともだち”に心酔していることが分かる。


 敷島教授はロボット工学の権威として立派な研究者なのかもしれないが、ゼミ生のマサオといい自分の娘といい、ろくな若者を育てなかったな。ともあれ、ケンヂは諸星さん殺しの犯人とレナちゃんが深い仲だと知っていたら、この程度の折衝では済まなかったはずだ。それより恐ろしいのは、ケンヂがウサギだったことを二人が知っていたということだろう。

 しかし、いずれにしろ手遅れであることが分かった。「夜の街にガオー」とは、「よげんの書」の巨大ロボットのモデルになった鉄人28号のテーマ・ソングの一節である。万丈目のいう「破壊の神」は、はやり完成していたと考えざるを得なくなった。細菌兵器に手が出ない以上、こちらを潰さなければいけない。次の行動が決まった。



(この稿おわり)



市ヶ谷の橋の上から四谷方面を臨む。この辺りにヘリコプターが盛んに飛んているのは、防衛庁自衛隊があるためだ。地の大みそかの日、巨大ロボットはこの橋を渡っているはずだ。(2011年9月28日撮影)