おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

2000年の秘密基地     (20世紀少年 第128回)

 ケンヂが待ち合わせ場所を渋谷に指定した理由は、ウサギ姿で出歩けるからという他にも一つ、これからオッチョを連れていくべきところに、こっそりとマンホールの蓋を開けて入りこむことができる場所に近かったからだ。

 そこまで歩きながら、二人はこれから何度も繰り返すことになる会話を交わす。すなわち、子供のころ自分たちが夢見た未来都市と現実とのギャップについて。そして、辿り着いた地下で語る「よげんの書」と現実の不気味な一致や、自分たちの夢と”ともだち”による演出の気色悪い不一致について。「それを救うのは俺達しかない」とケンヂは語る。

 すでに触れたように、誰が何と慰めようと説得しようと、ケンヂはこの展開に責任を感じている。このため、オッチョに語るところによれば、ジムと名の付くあらゆるところで武芸を鍛え体を作り、歌詞に隠された意味を含ませて街頭で歌い、指名手配されるほどの危ない橋も渡った。でも、これまでのところ、あまり成果は出ていない。


 さて、2000年の秘密基地は、建設工事途中で廃線になったという地下鉄のホームに立てられている。マンホールから地下におりる出入り口で、野球のバットを抱えて警備にあたっているのは、かつて「子供達に気をつけな」という神様の忠告を聞き流したために、不良によるホームレス狩りの被害に遭った「浜さん」である。

 地下の秘密基地を紹介しながら、ケンヂはオッチョに「原っぱに作ったのと大差ないだろ?」と感想を述べている。そうか? 少なくとも外装は大草原の家のほうがワイルドでロマンチックだったと思う。新築物件のほうは、屋根はおそらくブルーシート、壁は段ボールで、工事現場にある「安全第一」のハードルや赤いとんがり帽子みたいなやつ(正式名は何だろうか)まで立っている。

 もっとも、この場所、この家、食べ物は、すべて浜さんらホームレスたちの世話になっているという感謝の念をケンヂは忘れてはいない。家の中では、彼のコンビニから生姜焼き弁当を盗んで走り去った忠さんもいるし、血まみれの男(ドンキー殺し)に転がりこまれて往生したへーちゃんもいる。たまたま留守のようだが、すべては神様の取り計らいに違いない。


 外見はホームレス的でも、部屋の中は悪くない。炊事施設があるし、ビール・ケースにペット・ボトルもある。ちょうどケンヂの母ちゃんが調理中で、「あら、やだ、落合君」と嬉しそうだ。

 ケンヂの親の世代というは、すなわち私の親の世代でもある。過激なほどの社交好きが多い。「まーまー、すっかり大人になっちゃって、どうしたの、その長髪!!」と大騒ぎになっている。


 この基地には、カーテンで仕切られた別室まである。そこから飛び出してきてウサギ姿の叔父さんに抱きついた3歳のカンナ。浦沢さんは、このくらいの年頃の可憐な少女や、もう少し年上の元気な少年を書かせると抜群に上手い。この歳まで友達もなく両親もおらず地下で育てらたのに、表情も明るいし人見知りしないし良い子だよ。

 しかも、この場面は、後年、命知らずの戦闘員となる20世紀少年オッチョと21世紀少女カンナの初対面シーンだ。名前を聞かれて、すでにショーグン・モードから20世紀少年に戻っている男は、「おじさんは、オッチョだ」と答えた。されど、和やかな雰囲気もここまでである。ケンヂは「よげんの書」を取り出して、話をしなければならない。


(この稿おわり)



しかし何故これら小道具が秘密基地に?? (2011年9月9日)