メイを救出した後のショーグンと彼女の会話を語るためには、それまでのオッチョの人生を振り返らなければならない。彼はどうやら受験校に進学し、バスケットボールを楽しんだりした様子であるが、とりあえず第4巻の段階では彼が商社に就職したことが分かる。
107ページ目では「七色インコ」を飲んだショーグンが、自らの過去を思い出すシーンがある。バブル全盛時代という遠い昔の1980年代後半、彼は「いわゆる一流商社マン」であった。スーツ姿の落合氏の背景に描かれているのは、新宿西口の高層ビル街であり、この辺りに職場がある総合商社にお勤めだったのだろう。
そのころの流行(はやり)であったプールバー、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロックの略。ただし、AORも、ジャケットが描かれているボビー・コールドウェルも、私の学生時代にはすでにロック・ファンなら知っていた。日本の流行は遅い)、ブランド・スーツ、ボジョレ−ヌーボーがお好きだったらしい。
そして「何となく結婚」して、「豪華結婚式」を挙げ(彼もドライアイスの煙につつまれて、天井からゴンドラで降りて来たのだろうか)、息子の翔太君を得た。奥さんは、日曜日の遊園地の割引券を見せながら「たまには翔太の相手してあげてよ」と頼むが、彼はゴルフだと言って断ってしまう。
このとき父の後ろ姿を見送る翔太君は、サッカーボールを抱えている。このような絵を見たら、当時、仕事中毒だったサラリーマンの方々は胸が痛む人も多かろう。私とて同様である。しかし、オッチョの場合、それどころではなかった。
114ページ目、七色キッドのお代りを飲んだショーグンが思い出したのは、「お父さん今後いつ帰ってくるの」、「今度いつ遊んでくれるの」と尋ねる翔太君に、背中を向けて立ち去る自分の姿だった。七色キッドは恐怖を催す麻薬らしいが、思い出したくない過去を呼び覚ます作用があるのだとしたら、確かに効果は抜群だろう。
第2巻の39ページ目に、市原弁護士がユキジに対して、落合長治情報を伝えているシーンがある。それによると、9年前(1997年のシーンだから1988年に)、オッチョはタイで自動車事故を起したらしく、その1週間後に行方不明になったきりだという。奥さんと子供は日本に残してのバンコク単身赴任だったようだが、事故の1か月前に離婚した。
バンコクなら日本に時々戻れる距離だが、離婚した以上、少なくとも1か月以上は翔太君と会っていない。そして、第4巻の114ページに戻れば、外勤しようとするオッチョに電話が架って来て、通行人を父親と勘違いした翔太君が道に飛び出し、車に轢かれて危篤だという急報がはいった。
彼の運命は暗転することになる。長くなったので続きは次回。少し後味が悪くて申し訳が無いです。
(この稿おわり)
落合さんの元勤務場所の周辺。
私もこの辺りで働いていました。
(2011年9月16日撮影)